カンボジアの水上村で衛生環境を改善するために

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カンボジアの湖上コミュニティ用トイレ「ハンディポッド」普及のための2年間

 

2015年より、ウォーターエイド・カンボジアは、湖で生活するコミュニティを対象に先進的な活動を続ける現地パートナー「Wetlands Work!」が開発した水上トイレの技術「ハンディポッド」を普及するプロジェクトに取り組んできました。プロジェクト開始から約2年、直面する課題と革新的な解決法とは何かを、ウォーターエイド・カンボジアの現地代表ジェームズ・ウィッキンが解説します。

 

予期せぬ困難とイノベーションの必要性

2015年、乾期が続くにつれて、トンレサップ湖の水上コミュニティに住む人々は2つの予期せぬ困難に直面することになりました。1つ目の困難は、水位が下がりすぎたため、これまで1度も岸に上がったことのなかった水上の住居を岸辺に引き上げざるをえなくなりました。エルニーニョ現象による干ばつとカンボジア北部のメコン川で複数建設されているダムが川の流れに与える影響のため、湖の水位が過去最低にまで落ち込んだのです。

2つ目の困難は、この数年雨が極端に少なかったため、漁獲量が過去最低になったことでした。漁がこの湖に住む人々にとっての主な収入源であるため、多くの住民の収入が下がりました。

Yun Thy, 35, prepares food in the Phat Sanday floating village, Sturng Sen River, Tonle Sap Lake, Cambodia, Feb 2017
食事の準備をする女性
Image: WaterAid/ Laura Summerton

これらの困難がハンディポッドの普及に大きく影響することとなりました。人々は減っていく収入をトイレに使うことに躊躇しました。さらに、人々が永久に水上で生活するとは限らないことを考慮して、ハンディポッドを水陸両方で使用できるデザインに改良する必要もありました。

Wetlands Work! は、ハンディポッドのパーツのうち、従来は水に浮いていた汚水処理装置を、住居に固定するタイプの汚水処理装置に差し替えた新しい試作品を作りました。これによって、住居が水上にある場合、汚水処理装置は住居とともに水に浮くことができ、住居が陸上にある場合、汚水処理装置は住居に固定された状態で使うことが可能になります。

この改良により、ハンディポッドはより強固なものとなり、かつ多くの人が導入しやすくなりました。この新しいハンディポッドは、より長期にわたって使用することができ、激しい嵐の中にも耐えることができ、より簡単に設置することが可能になりました。さらに、最低限のメンテナンスしかいらず、かつ水上でも陸上でも効率的に稼働する汚水処理のしくみを備えています。

この週(このブログを書いている2017年3月)のカンボジアの気温は再び急上昇しており、2017年後半に始まるであろうエルニーニョ現象による水不足がすでに予期されています。また今年も湖の水位が下がるのは明らかなため、水陸両方で使えるハンディポッドが必要とされることが考えられます。

Wetlands Work! は、人々がハンディポッドの購入にかかる費用を負担する能力の差を埋めるために、この村に「共済グループ」を立ち上げました。グループのメンバーに行うローンの資金源として、コミュニティの人々がこの「共済グループ」に貯金をしています。「共済グループ」は、ハンディポッドを販売する「小売業者」としての役割を担うほか、人々がハンディポッドを購入する際に、分割払いを利用してハンディポッドを購入することを可能にしました。

 

ハンディポッドのサプライチェーンを築くために

本プロジェクトを実施するうえで、ウォーターエイドが最初に直面した課題は、どのようにして持続可能なサプライチェーンを築けばよいかということでした。当初は、現地の建築業者を対象に、ハンディポッドの製造方法および取り付け方法をトレーニングする、というやり方を考えていました。しかしながら、建築業者がすべての材料をどのように調達するか、さらには輸送費やそれにかかる時間などについて突き詰めていくと、これは実現が困難であるという結論に至りました。

この解決法として採用したのが、プノンペンにある社会的企業とのパートナーシップを結ぶことでした。この社会的企業が、ハンディポッドの材料をすべて製造し、汚水処理用のパーツとして使用するプラスチック製のドラム缶にそれらの材料を梱包、湖上のコミュニティまでこのドラムを届ける、という方法です。このように1か所で製品を製造することで、完成した製品の質をきちんとチェックできるというメリットがあります。また、製造プロセスを集結させることによって、製造過程を変更する際に他の製造業者と連携を取る必要がなくなるため、改良のためのデザインの変更がしやすくなるというメリットもあります。

Hakley Ke, teacher, inspecting the HandyPod at a school in Phat Sanday, Tonle Sap, Cambodia, January 2017.
改良版の水陸両用ハンディポッドを扱う学校教師のハッカリー・ケーさん

見たことのないものの良さを人々に伝えるには

おそらくこのプロジェクトで最も困難だったのは、人々がそれまでは直接湖に排泄していたため、対策にお金がかからなかった「排泄物の問題」を、製品で解決するという需要を生み出すことだったと思います。

コミュニティ主導総合衛生管理アプローチ(Community-Led Total Sanitation)は、人々がトイレを使うという習慣を身に付けるために、カンボジアで広く導入されています。コミュニティ主導総合衛生管理の一環でコミュニティを歩き、野外排泄場所を見て回るという過程がありますが、その点では、水で囲まれており移動にボートが必要な湖上コミュニティに、このアプローチを導入することは簡単なことではありませんでした。しかし、Wetlands Work!はこのような状況にも合うように、様々な改良を加え、このコミュニティ主導総合衛生管理アプローチを行っています。

Wetlands Work! は、全く別のこと、全くもって新しいことを試す必要もありました。ハンディポッドの潜在的利用者が、このハンディポッド自体を全く見たことも聞いたこともない、という点が大きな課題でした。一方、ハンディポッドを無料で提供することは選択肢としてはありませんでした。カンボジアでは、すでに数多くのNGOが無料で様々な物品を人々に提供しており、そのような状況でハンディポッドを無料で提供するということは、ハンディポッドが「お金を支払う必要のないタダでもらえるもの」と誤って認識されてしまう可能性があったからです。加えて、一部の人々にこれを無料で提供することは、村の中で不公平感を作り出すことにつながるという恐れもありました。さらに、貧困層を対象にこれを寄付するとなると、ハンディポッドが貧困層だけが使う「低い地位のもの」と認識されてしまい、中流の人々がこの購入を控えるというリスクも考えられました。
 

 

注目を集めるために

Wetlands Work!は、代わりに「衛生クジ」を作り、ハンディポッドを無料で寄付することなく注目を集める機会を作り出しました。それぞれの村で行われる「衛生クジ」の賞品として、ハンディポッドを提供。石けん、歯磨き粉やタオル、洗面台の鏡など他の衛生関連の賞品と並んで、ハンディポッドが最上位の賞品として認識されつつあります。
 

学校での衛生講座の開催

Wetlands Work! は、湖上コミュニティの学校でも衛生関連のキャンペーンを行い、需要を高めています。大人数に適した大きなサイズのハンディポッドを学校に導入したほか、いくつかの学校で先生たちと協力し、放課後に生徒の衛生意識を高めるための講座を開きました。この講座では、先生たちに有益な情報、手洗いや清潔な飲み水の重要性、さらには、多くの子供たちがしゃがんでするタイプの水洗式トイレを使ったことがないことをふまえて、正しいトイレの使い方といった内容を扱いました。

子供たちは、学校で得た衛生に関する知識を家族に伝えたり習慣の変化を促したりするため、子供たちにフォーカスを当てるのはとても重要なことです。現在、私たちは、新しい課題として、子供たちがトイレの後に手洗いをするための水の確保に取り組んでいます。

Students in class at school in the Phat Sanday floating village, Sturng Sen River, Tonle Sap Lake, Cambodia, Feb 2017
パット・サンデイ水上村の学校の子供たち

今後の計画

Wetlands Work! とウォーターエイドは、湖上コミュニティの人々が健康的な生活を送ることができることを目指し、共済グループや保健医療施設、学校、現地の商店などと連携しながら、ハンディポッドの改良ならびに普及支援に取り組んでいきます。

ウォーターエイド・カンボジア 現地代表 ジェームズ・ウィッキン