【活動レポート・ブログ】インド:ウォーターエイドジャパン役員がビハール州ガヤ県の水・衛生プロジェクトを視察①
ウォーターエイドジャパンは、支援者の皆さまのご寄付によって、インドにおける水・衛生プロジェクトをサポートしています。2024年11月、ウォーターエイドジャパンの古米弘明理事長をはじめとする役員5名と事務局長の高橋が現地に入り、ビハール州ガヤ県における水・衛生プロジェクトを視察してきましたのでご報告いたします。
インド ビハール州が直面する水問題とウォーターエイドの活動
インドは、驚異的な成長を続けている一方、その成長の陰で、人々の生命を脅かすほどの水危機に直面しています。インド政府のシンクタンク「Niti Aayog」が発表した「複合水管理指標2018」によると、インドではおよそ6 億人が水不足の状況にあり、干ばつによる水源の枯渇、ヒ素やフッ化物による水質汚染など、さまざまな水問題が発生しています。特に近年、気候変動の影響を受けて、各地で地下水の減少が顕著です。インドでは人口の80%が、飲用として地下水を利用しており、このまま地下水が減り続けると、2030 年までに飲料水を入手できなくなる人の割合が人口の約40%にのぼると予測されています。
インド東部に位置するビハール州は、人口1億300万人と、インドで3番目に多い人口を抱える州です。民族やカーストによって取り残されがちな人々が多く住んでいることもあって、インドの中でも最も貧困で開発が遅れた地域の一つと言われています。
気候変動の影響もあって、また、ガンジス川が州の西から東を横断するように流れているという地形的な条件もあって、ビハール州は下記のように多様な水問題を抱えています。
- ガンジス川沿いの地域で、地下水のヒ素汚染が起きています。
- 州の南部で、地下水のフッ化物汚染が起きています。
- 州の東部で、地下水の鉄による汚染が見つかっています。
- 州の南部は、降雨量が他地域より少ないこともあり、干ばつが起きやすい傾向にあります。
- 州の北部など、同州の56%の地域が、洪水が起きやすい状況にあります。
ウォーターエイドは1984年からインドにおける活動を開始。現地政府や住民が主体となって、地域の水・衛生問題を解決していくよう、そのしくみ・体制づくりを支援してきました。ビハール州には、38県あり、ウォーターエイドは、このうちの4県(北部にあるマドゥバニ県、南部にあるガヤ県、東部にあるバーガルプル県、西部にあるブクサール県)で各地域が抱える水・衛生問題を解決する活動を行っています。今回の視察ではガヤ県を訪問。保健医療施設やフッ化物汚染の影響を受けているコミュニティなどの活動を視察しました。
1日目:バンケバザールの保健医療施設
現地視察1日目、まずバンケバザール・ブロック(ブロック:県の下の行政区画)にあるコミュニティ保健センターを訪問しました。このコミュニティ保健センターは、地域の住民16万人をカバーしています。ウォーターエイドはこの施設で、医療従事者が安全に医療サービスを提供できるよう、また、施設の利用者である患者が衛生的な環境で治療を受け、女性が安心して出産できるよう、手洗い場とトイレを改修しました。
また、ウォーターエイドは、周辺コミュニティの地下水でフッ化物汚染が起きていることから、フッ化物汚染の影響について、住民が気軽に相談することができる窓口として「フッ化物緩和研究センター」をこの施設に併設しました。人が5人入ればいっぱいになるくらいの小さいスペースではありましたが、そのスペース内や外壁に、フッ素症の症状をチェックするイラストが描かれていました。そして心理学を学んだという女性保健スタッフが、現在は1か月に30人から40人の住民が相談に訪れていること、住民が持ってきた地下水の水質を検査していること、相談におとずれた住民の身長をはかったりして健康状態を確認し、フッ素症の症状などが見られる場合には専門的な治療を受けられるよう段取りしていること、もっと人材がいれば自ら村々を訪問したいことなどを話してくれました。
この「フッ化物緩和研究センター」は、ウォーターエイドの支援で立ち上げられ、現在はウォーターエイドの支援によって運営されていますが、現在、この取り組みを現地政府に共有しており、将来的に政府が主導する同様の機能を持つセンターが、他の保健医療施設にも設置されることを目指しています。
1日目:ロディプール居住区訪問
午後には、ウォーターエイドが給水システムを設置したロディプールを訪問しました。政府は、インドの農村部において、すべての自宅で水が得られるよう、給水地域の拡大を進めています。一方、23世帯が住むロディプールには、水源から遠い、水源より海抜が高いといった理由からコストがかかるなどの理由で、これまで給水設備が設置されずにいました。住民たちは、居住地の外にある手押しポンプ式井戸に、1往復30分、1日4~5往復、水くみに行っていましたが、夏にその井戸の水位が低下することもありました。
ウォーターエイドは、今年、この地域に地下水を利用した給水システムを設置し、維持管理のしくみを構築しました。現在、20人の女性たちが、この設備の維持管理を担当。そのうちの1人、サラスワティさんは、午前6時~9時、午後4時~7時に給水システムを動かしていること、月に1家庭30ルピー(日本円で約54円)の水使用料金を回収し、設備の維持管理にあてていることなどを説明してくれました。
こうした話し合いのあと、私たちは、住民の皆さんと一緒に、居住区の広場のようなスペースに集合。住民の皆さんが楽器の演奏と歌を披露してくれました。ウォーターエイド・インドのスタッフに聞くと、「衛生習慣の大切さ」を伝える歌詞とのこと。この村のトイレは現在、機能しておらず、住民は野外排泄をしているため、住民からはすぐにトイレを利用できるよう、家庭用のトイレがほしい、という声もあがりました。女性たちが協力して、給水システムの維持管理をしている様子を目の当たりにし、今後、住民たちが力を合わせてトイレを新設したり修理したりする様子が目に浮かびました。
視察の1日目最後の視察先と2日目については、次回のブログでご紹介します。