【活動レポート・ブログ】障害インクルーシブな水・衛生を推進するための取り組み

A landscape photo of Navy, 29,  Kro Lanh Village, Orussey Commune, Kampong Tralach District, Kampong Chhnang Province, Cambodia, April 2019.
Image: WaterAid/ Sokmeng You

カンボジア、バングラデシュ、オーストラリアのウォーターエイドスタッフが、団体が進める障害インクルーシブな水・衛生の取り組みと、ロンドン大学衛生熱帯医学大学院との新たな研究についてご紹介します。 

世界の人口の15%は障害者であると推計されています。カンボジアとバングラデシュでは、他の多くの国と同様、障害者は、水・衛生サービスを利用する際に困難に直面することが多くあります。例えば、視覚障害者は、自宅のトイレがニーズに対応していなければ、トイレの利用に支障をきたすかもしれません。 

2018年、ウォーターエイドは、カンボジアの農村部に暮らす障害者の女性が抱える水・衛生関連の問題についてヒヤリング。カンボジアの農村部に住む、歩行が不自由な29歳の女性は次のように話しました。 

月経中、体を清潔にするために温かいお湯が必要ですが、お湯を使うことができないので不衛生な池の水を使うしかありません。

こうした障害者が直面する水・衛生に関する不平等は、手洗いなどの衛生習慣の促進活動でも起きており、新型コロナウイルス感染症の流行によって、格差は拡大しています。例えば感染予防に不可欠な手洗いなど衛生行動の情報が音声で発信された場合、聴覚障害者はその情報を得ることが困難です。 

バングラデシュで障害者支援を行うNGO Bangladesh Society for the Change and Advocacy Nexus (B-SCAN)のサルマ・マハブブ事務局長は話します。 

新型コロナウイルス感染症が拡大している今、水・衛生は世界の人命にかかわる課題です。この難局に団結して立ち向かい、人々が安心と尊厳を享受した社会を築くためには、政策決定者やステークホルダーによる強いコミットメントが不可欠です。
Jotti (12) walking down the ramp from her family's customized disabled friendly toilet. Jotti is also suffering with rare diseases like her father. Pankhali, Dacope, Khulna, Bangladesh. 24 August 2020.
自宅のトイレに設置されたスロープを歩くジョティさん(バングラデシュ・クルナ県)
Image: WaterAid/ DRIK/ Habibul Haque

 

障害者とともに取り組む、水・衛生の権利の促進 

ウォーターエイドのビジョンは、「すべての人々がすべての場所で、清潔な水とトイレを利用し、衛生習慣を実践できる世界」です。ウォーターエイドは、低中所得国で暮らす障害者の水・衛生に関するニーズに焦点をあて、自宅や学校、保健医療サービス、公共の場において、障害者が安全かつアクセス可能で適切な水・衛生サービス(清潔な水、トイレ、手洗い)を利用する権利を促進しています。 

ウォーターエイドは、障害当事者団体と連携し、障害者が水・衛生に関する権利向上を呼びかけ、働きかける活動を支援しています。最近では、障害者のニーズに対応した新型コロナウイルス感染症対策が実践されるよう発信。また、障害インクルーシブな水・衛生政策と水・衛生サービスが採用されるよう、政府への働きかけに取り組んできました。 

例えば、カンボジアでは、過去5年以上にわたって、政府による「障害インクルーシブな水・衛生ガイドライン」の策定と検証を支援しました。また、バングラデシュでは現地政府と連携し、ジェンダーに配慮し、障害者がアクセス可能な公衆トイレへの理解促進に取り組んだほか、そうしたトイレが主要都市に普及するよう活動してきました。 

What about me' workshop in Kampot Province, Cambodia, September, 2019.
Image: WaterAid/ Sokmeng You

また、カンボジアでは、障害者が利用可能な水・衛生設備に関する理解向上を促す取り組みの一環として、国際NGOエピック・アーツや障害当事者団体と連携。障害者が水・衛生に関して直面する問題を現地の政策決定者に共有するインクルーシブ・ワークショップを開催しました。  

 

ロンドン大学衛生熱帯医学大学院との新たな研究 

2020年、ウォーターエイドは、ロンドン大学衛生熱帯医学大学院と連携し、障害インクルーシブな水・衛生に関する新たな研究を開始しました。 

この2年間の研究プロジェクトは、オーストラリア外務貿易省の「Water for Women Fund(女性のための水基金)」の支援を受けて実施。開発途上国において、障害やジェンダーに配慮した水・衛生関連の政策が推進されるようになることを目指し、政府向けの政策策定とその政策の実践に関する手引きを作成します。 

このプロジェクトでは、まず、カンボジアとバングラデシュの現地障害当事者団体と連携し、障害を持つ男性・女性が、水・衛生に関してどのような経験をしているかを記録し分析します。また、障害インクルーシブな水・衛生政策がどのように実施されているか調査し、障害者がいる家庭では、女性が介助を担当することが多い、といったジェンダー関連の課題も調査する予定です。 

カンボジアの障害当事者団体であるCambodia Disabled Persons Organisation(カンボジア障害者組織)のモニカ・マク事務局長は話します。 
 

この研究は、カンボジアにとって良いプロジェクトです。私たちは、施策とガイドラインの改善を求めて、研究によって明るみになった障害者が直面する困難やニーズを政策決定者に伝える予定です。私たちは、バングラデシュのインクルーシブな水・衛生に関する好事例を学び、また、お互いに得た学びを共有することを期待しています。

ウォーターエイドは、活動から得た情報を活用し、政策決定者と実務者向けに好事例を共有し、実践的な手引きを策定していく予定です。同研究は、カンボジアとバングラデシュにおいて障害インクルーシブな水・衛生を進める過程で、何が成功し、何が妨げになるかを検証し、それらが今後役立つエビデンスとなることを目指します。また、こうした実用的な情報が、新型コロナウイルス感染症の危機下で、低中所得国の政府が、インクルーシブかつアクセシブルな衛生対策を立案する際の参考になることを期待しています。

 

このレポートは、ウォーターエイド・バングラデシュのHorizontal Learning Programme(HLP)プロジェクト・マネージャーであるマフジュール・ラハマン、ウォーターエイド・カンボジアの平等とインクルージョン(包摂)マネージャーであるファロジン・フェン、およびウォーターエイド・イギリスの平等とインクルージョンのテクニカル・リードであるチェルシー・ハジェットの3人によるレポートを、ウォーターエイドジャパンで編集したものです。オリジナルはこちら(英文)