清潔な手―健康のためのレシピ:手の衛生と食の衛生をつなぐ

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28 February 2019

開発途上国では下痢の原因の70%は食品に由来するといわれ、健康と開発に多大な影響を及ぼしています。それでは、衛生行動を改善するうえでなぜ食品衛生が後回しにされているのでしょうか。食品衛生と手の衛生にはどのような関連があるのでしょうか。ウォーターエイド・イギリスの水と衛生シニアマネジャーであるオム・プラサド・ガウタムが衛生行動を変えるべき理由について解説します。

清潔な手―健康のためのレシピ。なぜ食の衛生が大事なのでしょうか?

開発において未だ解決されていない大きな課題の一つに食の衛生があります。例えば、食事前や子供の食事を介助する前、そして調理の前に手を洗うこと、調理や温め直す時は完全に火を通すこと、清潔な食器を使うこと、調理済みの食品は蓋で密閉して保存すること。これらは、食品を原因とする病気や下痢性疾患を予防するためには欠かせません。しかし、日頃から食に対する正しい衛生習慣を身に付けて、手洗いを実践している人はごくわずかです。

不衛生な方法で調理された食物を摂取した場合、その中に含まれる微生物の汚染レベルが上昇し、下痢性疾患をひきおこす危険性が高いことがわかっています。下痢になれば食事量が減るばかりか、食事から吸収できる栄養の量も減ってしまいます。特に子供の場合、身体と頭脳の成長に著しい影響を及ぼしかねず、将来的に病気にかかりやすくなります。

2018年「世界手洗いの日」のテーマ「清潔な手は、健康のための『レシピ』」において、食品衛生や栄養などを含む、手洗いと食品の関係に焦点をあてたところ、喜ばしいことに、いくつかの進展がありました。まず、手洗いが「持続可能な開発目標(SDGs)」のアジェンダの一つに加えられました。また、ユニセフと世界保健機関(WHO)が立ち上げた、各国の水・衛生のアクセス状況をモニタリングする「共同モニタリングプログラム(Joint Monitoring Programme)」が使う指標の一つにもなりました。以前よりも多くのデータが集まり、また、手洗いへの政治的な関心が高まっており、下痢性疾患で亡くなる5歳未満の子供の数は10年前に比べて減少しています。

しかし、それでもなお、予防可能な下痢によって命を落とす子供たちは、毎年およそ50万人にのぼっています。「石けんで手を洗う」というシンプルな行動によって、最大48%の下痢を減らすことが可能である一方、世界中でわずか27%の家庭しか手洗いに必要な石けんと水を備えておらず、また排泄物に接触したあとに手を洗う人の割合もわずか19%にすぎません。

ある調査によれば、開発途上国の下痢の70%は食品に由来し、また食物を介して発生した病原菌が原因ともいわれています。公衆衛生分野において、効果的な情報提供と迅速な方針決定を行い、対策を実行するには、食品衛生が下痢予防のために果たしうる役割について、上記のような研究・調査に基づいたエビデンスが一層必要になります。そして、このエビデンスをもとにした行動中心アプローチこそが、衛生行動を改善するために必要な新しく賢明な方法なのです。ウォーターエイドは既にネパールで試験的にこの手法を取り入れています。

現在までのところ、食物汚染に関して、公衆衛生による介入は不十分で、遠い道のりと言わざるを得ません。

  • 誤った食品衛生を引きおこす主な要因:
  • 調理や食事を提供する前に手を洗わない
  • 劣悪な衛生設備が原因で環境が汚染されている
  • 調理する時、または調理器具を洗う時に汚れた水を使っている
  • 手や調理器具を拭くときに不潔な布を使っている
  • 食品の保存方法が適切ではない
  • 加熱・調理時間が不十分である
  • 食事の準備から提供までに時間が空きすぎている
  • 殺菌されていない不衛生な哺乳瓶を使う
Gautam O, Schmidt W, Cairncross S, Cavill S, Curtis V (2016). Trial of a novel intervention to improve multiple food hygiene behaviours in Nepal. American Journal of Tropical Medicine and Hygiene.
Gautam O, Schmidt W, Cairncross S, Cavill S, Curtis V (2016). Trial of a novel intervention to improve multiple food hygiene behaviours in Nepal. American Journal of Tropical Medicine and Hygiene.

優先すべき5つの食品衛生行動

  • 0: 完全に調理する
  • 1. 石けんや石けんの元となる灰を使って食器を清潔にする
  • 2. 親は子供の食事を介助する前に、子供は食べる前に、石けんで手を洗う
  • 3. 調理済みの食品を適切に保存する
  • 4. 残り物や保存していた食品は70℃以上で十分に再加熱する
  • 5. 水やミルクは沸騰させて取り扱う

 私たちがやるべきこと、やるべきではないこととは?

2018年の「世界手洗いの日」、ウォーターエイドは、手洗いプログラムへの優先化、政策転換、そして投資および連携協力を提唱しました。

特に、食物を介した病気感染に関しては、低・中所得者層に対する取り組みが研究面でも対策面でも著しく遅れており、この点の改善について強く呼びかけました。

一方、すでに「世界手洗いの日」は終わりましたが、このようなメッセージは継続して発信していくことが大切です。キャンペーン期間中だけメッセージを発信したり、費用をかけて帽子やTシャツを印刷して訴求したり、また、時間と労力を使ってポスターやチラシを配布しても、効果は限定的です。一年に一度情報発信したところで、手と食品の衛生について人々の行動を変えることはできないのです。また、単に衛生設備を提供するだけでも習慣を変えることはできません。

むしろ、この日をきっかけとして、本格的な行動変容につながるようなことをすべきだと考えます。行動変容を永続的に定着させて、改善された水や衛生設備の恩恵を最大限享受してもらうためには、この日に限らず年間を通じて働きかけを行うべきです。長年身についた習慣を変えるわけですから、感情に訴えてやる気を起こすという、エビデンスにもとづいた行動変容法を用いる必要があります。また、掲示物や小道具なども駆使して注意を喚起し、新しい習慣をわかりやすく明快なものにして、社会常識として受け入れられるまでにしなければなりません。

行動や環境を効果的に変化させるためにすべきことは?

より効果をあげるためには、衛生行動の変化を促す取り組みは、行動変容の科学的根拠に基づいた綿密な計画のもとで行われるべきです。そして、石けんを使った手洗いや食品衛生などの鍵となるいくつかの行動にも対応する必要があります。

ウォーターエイドは、病原菌の話や良い衛生行動が健康にもたらす効果についてのみ言及する、いわゆる非効果的で古い教育手法は廃止し、代わりにコミュニティの人々の話をよく聞いた上で、彼らにとって原動力であり動機でもある、彼らの行動の普遍的な決定要因を理解するという、行動中心アプロ―チを採用しています。そして、クリエイティブなチームと協働し、衛生に関する行動変容が永続的なものになるよう、人々の感情を効果的に生かした革新的かつ魅力のある手法を策定します。

コミュニティにおいて食品関連の衛生行動が定着するためには、各国レベルで、そして国際的にも、既存の栄養、保健、教育、水・衛生分野のプログラムのなかに、手と食品の衛生を組み込む必要があります。また、各国政府、ドナー、プログラムの実施組織は、食品衛生と手洗いの補完的支援のために、より多くの資金を投入すべきです。

ウォーターエイドは、各国政府が国内における衛生行動に変化をもたらし、水・衛生設備の改善に取り組む際、それらを優先度高く実行し、また、資金分配できる実施能力が向上するよう、サポートします。また、行動変容キャンペーンが、従来の教育に比べて効果的かつ革新的で優れた調査に基づくものであるのかを実証します。そして、各国政府と協働しながら、衛生行動に変化をもたらす取り組みを保健(予防接種、新生児ケア)、栄養、および教育の各分野と統合し、行動変容の推移を評価し、取り組みの効果を追跡調査するためのモニタリング・評価システムを構築(強化)します。

今後、各国政府を含むステークホルダーがエビデンスに基づく画期的なプログラムを優先的に取りあげて、大々的に実施することを期待しています。十分な資金、統合、そして優先化が揃って、はじめてこの問題の解決に向けて第一歩を踏みだせるのです。
 


【出典】

  • Rosenbaum J and Berry R (2017). Essential WASH Actions: A training and reference pack. globalhandwashing.org/resources/essential-wash-actions-a-training-reference-pack-to-supplement-essential-nutrition-actions/ 
  • www.thelancet.com/infection Published online June 1, 2017 http://dx.doi.org/10.1016/S1473-3099(17)30276-1
  • Ejemot R, Ehiri J, Meremikwu M, Critchley J (2008). Hand washing for preventing diarrhoea. Cochrane Database of Systematic Reviews. 
  • WHO/UNICEF (2017). Progress on drinking water, sanitation and hygiene. WHO/UNICEF Joint Monitoring Programme.
  • Freeman M, Stocks M, Cumming O et al (2014). Hygiene and health: systematic review of handwashing practices worldwide and update of health effects. Tropical Medicine and International Health. 
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  • WHO (1996). Basic Principles for the preparation of safe food for infants and young children Geneva: World Health Organization. 
  • Gautam O, Schmidt W. Cairncross S, Cavill S, Curtis V (2016). Trial of a novel intervention to improve multiple food hygiene behaviours in Nepal. American Journal of Tropical Medicine and Hygiene.