【支援の現場から】手洗いは新型コロナウイルス対策に不可欠であり、将来起こりうる感染症の世界的流行を防ぐ

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30 October 2020
in
Hygiene
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WaterAid/ Tapas Paul

石けんによる手洗いは、新型コロナウイルス感染症から身を守る第一の防御策であり、世界の保健医療を脅かすような様々な感染症の拡大を防ぐ生命線になります。ウォーターエイド・イギリスの水・衛生シニアマネジャーであるオム・プラサド・ガウタムが、新型コロナウイルス感染症の拡大を抑制し、将来起こりうる感染症を防ぐための手洗いの重要性について解説します。

2020年の「世界手洗いの日」は特別なものとなりました。新型コロナウイルス感染症の世界的な流行によって、手洗いの果たす重要な役割が世界で強く認識されるようになりました。今年の「世界手洗いの日」は、健康のため、そして政策・戦略の転換に向けて、石けんを使った手洗いの大切さを発信すると同時に、持続可能な開発において手洗いを優先化し、より資金を投入することが重要であることを際立たせる日となりました。

適切な衛生習慣、特に手洗いは、最も費用対効果に優れた公衆衛生対策であり、新型コロナウイルス感染症から身を守る第一の防御策として、世界中で多くの人々の命を救ってきました。これからも、手洗いは公衆衛生対策の最前線にあり続けるとともに、私たちは、これを機に、大規模に衛生習慣を変えていかなければなりません。

今年の世界手洗いの日のテーマ「手指衛生をすべて人に」のもと、ウォーターエイドは、手洗いを新型コロナウイルス感染症対応の活動や水・衛生プロジェクトの中心に位置づけました。新型コロナウイルス感染症や下痢症をはじめとする感染症の予防のために、人々の長期的かつ持続的な行動変容を促す活動が、あらゆるレベルで優先的に取り組まれるよう、働きかけています。

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WaterAid/ Mani Karmacharya
ネパール・カブレ郡に設置された非接触式の手洗い設備を、産婦人科の看護助手であるスニタ・カレルさんが使用しています。これはウォーターエイドの新型コロナウイルス対策の一環として、設置されたものです。2020年9月撮影。

手洗いと新型コロナウイルスの関係

新型コロナウイルス感染症は、主に飛沫や接触-感染者との濃厚接触や咳、くしゃみなどよって感染します。直接的な接触と同様、飛沫が手や物体、何らかの表面に付着すると、それらに触れた人が、自分の目や鼻、口を触ったり、その手で食事をしたりしてウイルスに感染します。石けんには、ウイルスを覆う膜を破り、感染力を削ぎ、拡散を防ぐ効果があります。

感染予防としての石けんによる手洗い

適切な手洗いが実践されていない地域では、感染症は容易に拡大し、子供たちは学校に通えなくなり、大人たちは仕事ができず、より感染に対して脆弱な人々が感染し、そして学校や保健医療施設といった公共施設が感染源となるリスクが高まります。石けんによる手洗いを実践することで、次のような効果が確認されています。

  • 感染性下痢症への感染リスクが最大30-48%低下
  • 急性呼吸器感染症が最大23%減少
  • 肺炎が最大50%減少
  • 新生児感染症の著しい減少
  • 保健医療施設における手洗いの改善で、感染症による新生児および乳児の死亡率がそれぞれ最大40%と最大27%減少
  • 学校での生徒の欠席率が43%減少
  • 保健医療関連感染の防止
  • 季節性コロナウイルスへの感染リスクが36%低下

手洗いを含む衛生習慣を正しく実践することは、コレラやエボラ、赤痢、SARS、E型肝炎、顧みられない熱帯病(NTD)、そして新型コロナウイルスといった病原体の蔓延を抑制し、感染症の拡大防止に役立ちます。
 

手洗いが浸透しない理由

設備の不足と習慣の欠如
世界では、40%の家庭に水と石けんを備えた手洗い設備がなく、トイレの後に石けんで手洗いをする人々はわずか19%です。現在は新型コロナウイルス感染症への恐怖心から、より多くの人々が手洗いを実践しているかもしれませんが、過去の経験と研究から、こうした動きは一時的なものに過ぎないと考えられます。

また、世界の43%の保健医療施設に、そして開発途上国の47%の学校に、水と石けんを備えた基本的な手洗い設備がありません。つまり、9億人の子供たちが、学校にいる間に石けんで手を洗うことができないことを意味しています。データによって、所得や地域(都市部か農村部か)によって大きな格差があることがわかっています。手洗い設備がなければ、人々は適切な衛生習慣を実践することができず、人々の健康はリスクにさらされます。


セクター内での位置づけ
手洗いは費用対効果が高く、保健への影響が大きいにもかかわらず、今回の新型コロナウイルス感染症の拡大が起きるまで重視されてきませんでした。現在、持続的な行動変容の重要性が見直されてきている一方、手洗いは依然として水・衛生や保健、教育、栄養分野において重視されていません。このように「重視されていない」ことは、従来の(不十分な)衛生習慣普及の取り組み方法(手洗いの知識を増やすことに重点を置いている、衛生習慣を付属的な活動として位置づけている、専門家の考えのみに基づいて支援方法を設計している、縦割りで衛生習慣プロジェクトを実施している、セクター間の調整や資金確保に注力していない、行動変容の持続性ではなくアウトプットのみに注目したモニタリングを行っている)に表れています。新型コロナウイルス感染症がもたらした新たな社会的な枠組み(ニューノーマル)において、このような従来のやり方を続けることはできません。保健、栄養等、各分野で実施中のプログラムに、衛生習慣の促進をどのように位置づけ実施するのかについて、大きな変化が必要であり、同時に、「しくみを変える」という視点も欠かせません。

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WaterAid/ Guilhem Alandry
ジョンカラ・オブ・ブラ劇団が、保健衛生の重要性をテーマとしたウォーターエイドのオリジナル演劇を披露しました。マリ共和国・トウコロにて2018年4月に撮影。

手洗いがより効果的に広まる方法

手洗いに関する行動変容を促す活動は、行動科学に基づき、体系的に設計されれば、高い確率で効果的になるといえます。大切なのは、事前調査・評価で得た、人々の行動の決定要因となるものや人々の感情などに関する情報・特徴を的確にプログラムに反映させることです。

「手洗い教育」だけでは不十分であることも認識しなければなりません。手洗いに関する情報だけでは、人々の行動変容は持続しません。手洗いに関する行動変容の取り組みは、現地の状況に適したものであり、誰一人取り残さず、人々の関心を引きつけ、人々のモチベーションとなり、人々の行動を促すよう環境を変化させる必要があります。例えば、手洗い設備を必要な場所に設置することで、人々は手洗いしやすくなり、さらに、そこに「きっかけ」や「一押し」の工夫があれば、さらに人々は手を洗うようになるでしょう。

このような取り組みは、行政など、しかるべき体制を通じて実施されるべきであり、そうすることで、この取り組みはより持続的になります。そして、実施中のプログラムの効果的であるか、なぜ、どのように効果的であるかを正しく理解し、必要に応じて学びや発見を取り入れていくためにも、継続的なモニタリングは不可欠です。

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WaterAid Ghana
「学校における水・衛生の権利プロジェクト」の一環として、ウォーターエイド・ガーナは、教員を対象とした研修をアクラで実施。児童の水・衛生への権利について責任を担う教員の理解向上を目指して実施している。

手洗い普及の実績と経験

ウォーターエイドでは、これまでも石けんによる手洗いを、最も費用対効果の高い公衆衛生政策の1つとして推し進めてきました。現在、新型コロナウイルス感染症対策の最前線に位置づけ、他の行動変容と合わせて、人々を守るための手洗いを促進しています。

ウォーターエイドは、長年にわたり、大規模、かつ現地に即した手洗い促進プログラムに取り組んできました。政府やパートナーと連携し、南アジア、アフリカ、中南米の9,900万人を対象に、行動変容に重点を置き、かつ根拠に基づいたアプローチで手洗い促進プログラムを実施してきました。

人々のやる気をかき立て、かつこれまでのベスト・プラクティスをきちんと取り入れるために、マスメディア、ソーシャル・デジタルメディア、家庭訪問、そして「密」を避けるための非対面型の手法など、ウォーターエイドは、人々を引きつける、そして人々の感情に働きかける多様な促進ツールを活用しています。こうした取り組みは、人々の心を動かし、意識啓発を超えた成果を出しています。具体的な活動内容については、こちらをご参照ください。

また、感染のリスクを極力抑えつつ、人々に迅速に手洗いの機会を提供するために、ウォーターエイドは、公共の場所を対象とした、手で触れずに使用でき、現地の状況に合った、インクルーシブな手洗い設備の設計や設置にも取り組んでいます。詳しくは、こちらからテクニカル・ガイドをご覧ください。家庭向けには、現地で設計・設置が可能な手洗い設備を促進しています。

ウォーターエイドは、すべての活動において、人権に基づくアプローチをとり、取り残されがちな層、脆弱層や社会的に排除された人々の支援に注力しています。「公平かつ包摂」の原則に基づき、多面的かつ体系的な方法で、クリエイティブでありながら、根拠に基づいたウォーターエイドの脆弱層を対象とした活動は、コロナ禍の困難にあっても、コミュニティにおける長期的で持続的な行動変容を可能にしています。ウォーターエイドによる包摂的な衛生の取り組みについては、こちらをご参照ください。

ウォーターエイドの今後の取り組みとしては、マスメディアを活用した衛生関連の情報発信を継続しつつ、コミュニティに軸足を置いた活動にも注力していきます。ウォーターエイドは、英国外務連邦省やユニリーバを含む、様々な機関や民間企業、個人の支援者の皆さまからのご支援によって、多くの国々で持続的な変化をもたらす活動を強化していきます。
 

将来起こりうる感染症の世界的流行を防ぐ手洗い

行動変容を持続的に促す活動(手洗い含む)は、新型コロナウイルス感染症や将来的な感染症対策含めて、すべての開発目標に組み込まれる必要があります。ウォーターエイドは、引き続き手洗いの重要性を発信し、また、プログラムを通じて、行動変容の効果を実証していきます。

また、ウォーターエイドは今後も、現地に適した、革新的かつクリエイティブで、根拠に基づく支援活動を展開し、特に重要な衛生習慣の行動変容に焦点をあて、その成果を最大化しつつ、政策への働きかけを行っていきます。ウォーターエイドは同時に、政府やパートナー、職員などのステークホルダーが、根拠に基づいた「行動中心設計アプローチ(Behaviour Centred Design Approach)」を用いて、効果的な衛生プログラムを立案、実施、評価できるよう、能力開発にも取り組みます。ウォーターエイドは、「すべての人々に手洗いを」を実現するための国際的な取り組みから現地の取り組みまで、様々なイニシアチブを支援します。

行動変容の活動と並行して、ウォーターエイドは、政府、公的機関、学術機関、民間セクター、市民社会と構築した戦略的パートナーシップを強みに、しくみの強化や各セクター間の連携、ファイナンスにも取り組むことによって、持続的な衛生習慣の改善に多角的に取り組んでいきます。そして、各国政府やドナー、そしてすべての関連するセクターに対し、手洗いを含む衛生分野により注力するよう働きかけていきます。

非接触型手洗い設備を使用する少年。マダガスカル・マンジャカンドリアナにて2020年8月に撮影
WaterAid/ Ernest Randriarimalala
非接触型手洗い設備を使用する少年。マダガスカル・マンジャカンドリアナにて2020年8月に撮影

行動変容とワクチン開発の両立

現在、ワクチンが万能な特効薬として考えられており、多くの政府や援助機関が、ワクチン開発に資金を拠出しています。完成したワクチンは、感染拡大にとって、重要な節目となり、何百万人の命が救われ、経済の回復も見込まれるでしょう。しかし、現時点では、ワクチンの効果について確実なことはわかりません。

予防可能な病気に対する既存のワクチンのどれもが100%効果がある、というわけではなく、ワクチンの普及によって完全に根絶できる感染症は多くはありません。そのため、適切な衛生習慣は今後も重要であると言えます。ワクチン開発は、間違いなく喫緊のニーズではありますが、ワクチン開発に加えて衛生分野にも資金が向けられることも重要です。

ワクチン接種と合わせて衛生習慣を実践すると、感染症の拡大を漸次的に抑制する効果があり、それは新型コロナウイルス感染症も例外ではないと考えています(新型コロナウイルス感染症についてはより多くの証拠が必要ですが)。ウォーターエイドのネパールでの取り組みは、衛生習慣が国の予防接種プログラムの一部となりえることを示しました。活動についてはこちらをご覧ください。


世界の努力の結集

行動変容を促す活動を効果的に立案、実施、評価するためには、分野横断的なアプローチが求められます。そして、それを大きな規模で進めるには、政府や援助機関、市民社会、民間セクター、学術機関など、衛生分野における多様なステークホルダーと連携して取り組む必要があります。

ウォーターエイドは、新型コロナウイルス感染症が流行する前から現在に至るまで、衛生習慣の促進や行動変容について多くを学び、そして重要なことに、今も学び続けています。石けんによる手洗いを通して、新型コロナウイルス感染症の拡大を防ぎ、未来の感染症の脅威を減らし、そして国際保健を変えていけるよう、力を合わせていきましょう。

このレポートは、ウォーターエイド・イギリスの水と衛生シニアマネジャーであるオム・プラサド・ガウタム(Om Prasad Gautam)のレポートを、ウォーターエイドジャパンで編集したものです。オリジナルはこちら(英文)