100万基以上のトイレが必要なガーナ~トイレ職人の育成が急務
ガーナにおいて121万世帯が安全なトイレを所有し、使用できるようにするためにはどうしたらよいでしょう。ウォーターエイド・ガーナのポリシーマネージャー、チャカ・ウゾンドゥはなぜ今、トイレ職人に注目するべきかを語ります。
ガーナでは、安全なトイレへのアクセスを持たない家庭は121万世帯にものぼります。そしてそのほとんどが農村部に住んでいると言われています。どうしたら彼ら、特に農村部に住む人たちに家庭用トイレを所有し、使ってもらうことができるのでしょう。この答えのカギを握っているのがトイレ職人です。ウォーターエイドが直面している衛生問題を考えたとき、トイレ職人たちは今、医師たちよりも重要という見方をできるかもしれません。これは決して大袈裟ことではありません。
優れた医師は患者の症状をもとに、健康問題を診断し、原因に対処しようとします。しかし、医師は患者の症状にしか対処できないことがあります。一方、優れたトイレ職人は―トイレ-という病気を予防することのできる素晴らしい装置を提供します。しかし残念なことに、多くの人は水・衛生問題の改善のためにトイレ職人が担う役割を過小評価しています。ガーナにおいて、すべての人が適切なトイレへのアクセスを得るためには多くのトイレ職人が必要だ、ということに人々は気づいていないのです。結果として、ガーナ国内のトイレ事情は劣悪なものとなっています。
すべての人が適切なトイレへのアクセスを得るということは、公衆衛生にとって非常に重要です。これはなにも農村部に限らず、都市部にも言えることです。都市部に住む人々は、支援を得る機会が頻繁にあります。例えば、世界銀行が資金援助をしたGAMAプロジェクトなどです。一方、農村部の住民は、支援を得ずに自分たちでトイレを設置することが期待されています。しかしながら、農村部において、どういったものが適切なトイレなのかという絶対的なスタンダードはあまり存在していません。加えて、トイレの建設自体、スキルとして認識されていません。
もしトイレの設置方法を知らなかったら、どうやってすべての人が丈夫なトイレを所有することができるでしょうか。
これはある意味矛盾しているとも言えます。私たちは、一方で、人々による家庭用トイレの「オーナーシップ(責任感・当事者意識)」を推し進めたいと考えており、多くの農村部では、特に雨期になるとトイレが崩れやすい、という課題があることも分かっています。他方、私たちは、農村部の人々がトイレを設置する上で直面する最大の課題は、持続可能なトイレの建設方法がわからないことだ、という住民からのフィードバックを真剣に受け止めてられていません。
私の経験上、家庭用トイレを所有していない理由として2番目に多いものが、「住民自身がトイレを設置する技術的な知識を持っていないから」というものです。これをただの言い訳とみなすのは問題を単純化しすぎていると言えます。このことから「この地域の政府機関の役割とは何か」を考える必要もあると言えるでしょう。
水やトイレ、衛生習慣に関わる地域集会と連携する際に、「野外排泄ゼロにするために働きかけているコミュニティはいくつありますか」とか、「この県には何人のトイレ職人がいますか」といった質問をします。加えて「過去2年間でトイレ職人を何名育成しましたか」と尋ねます。たいてい、これに対する答えはゼロ、誰ひとりとしてトイレ職人としての訓練を受けていないのです。また時に、NGOや他団体がトイレ職人の育成を支援している場合があります。そのときには「もし奇跡的に、この地域に住むトイレを持っていない人々全員が、来月にはトイレをほしい、と言った場合、トイレを設置することのできる職人は何人いますか」と尋ねます。もし2025年までに、すべての人が適切なトイレを使えるようにするならば、優れたトイレ職人が大勢必要となります。
一つの地域でトイレを設置するのにはどれくらいの期間がかかるのでしょうか。
わかりやすいようにある県の人口が10万人と仮定してみましょう。1家族の人数が5名だと仮定したら、この地域にはおおよそ2万基の家庭用トイレが必要です。最も普及率の低い地域の平均トイレ普及率は現在約30%ですが、少し多めに見積もって40%だったとして考えると、この地区に現在8,000基の家庭用トイレがあることになります。ということは、12,000世帯が依然としてトイレを必要としていることになります。
そこでこの地域に100人のトイレ職人がいるとして考えてみましょう(もし100人以上のトイレ職人がいる地域があったらぜひ教えてください)。単純に考えて、この計算ですと1人のトイレ職人が120基のトイレを作らなくてはなりません。1人の熟練トイレ職人が1つのトイレを完成させるのに5日間かかると考えるとすべてのトイレが完成するまでに600日を要するということになります。
あくまでこの計算はトイレ職人たちが365日休まずに同じペースで働き続けることを前提としての計算です。しかしながら多くの農村地域に住む職人たちは一年の約半分を農耕に費やすことが予想されるので、さきほどのトイレ設置計画の見積もりは大きく誤っていると言えるでしょう。では、トイレの設置に使える期間が一年の半分しかないと仮定してみましょう。
そうするとこの地域で12,000基のトイレを設置してすべての人が安全なトイレを使用できるようにするためには3年4か月かかるということになります。これが最善のシナリオです。あくまでこの試算には期間中の人口増加によるさらなるトイレへの需要が増加することは想定されていません。言い換えれば、100人のトイレ職人が3年4カ月働いてやっとこの地域ですべての家庭がトイレを所有し使用する理想的な状態が可能になるということです。
トイレ職人は、農村部の衛生状態を改善するための多角的な解決策には必要不可欠な存在です。かといって、トイレ職人を増やすだけでは厳密に言えば永久的な変革をもたらすことはできません。他にも多くの考慮すべき要素があるからです。
ここまでの話には多くの仮定が含まれています。例えば、上記のシナリオでは、すべての人が家庭用トイレを所有し利用したいと願っていて、かつ、彼らがトイレを設置するために、お金を使うことができる、お金を使いたいと思っている、ということが前提です。しかし、広く不平等がはびこる地域において持続可能なトイレを建設するためにお金をかけることは、多くの低所得家庭にとっては贅沢なことでしかありません。貧困率が極度に高い、もしくは不平等のレベルが高い地域では野外排泄は珍しいことではありません。読者の皆さんがもし限られた財源しかなく、学費を払うかトイレを建てるかを選択しなくてはならなかったらどうしますか。草むらや海辺で用を足すことを選ぶ人も中にはいるでしょう。言い換えれば、収入格差とそれに付随する限られた収入が家庭用トイレの普及を拡大することを妨げる要因であるということです。
供給は需要を満たさなければなりません
ガーナにおいてすべての人が適切なトイレを使うことを可能にするためには、トイレを所有したいと願うすべての人が、速やかにトイレを手に入れることが保証される必要があります。これは、供給が需要を常に満たすことが必要だ、と言い換えることもできます。別の記事で述べたいと思いますが、需要を生み出すということについてももっと議論をする必要があります。しかし今ここでは供給に焦点をあてたいと思います。
すべての人が適切なトイレを持つ権利を実現するためには、その実現に責任を持つべき国(政府)が、トイレの供給が進む環境を造り出さなければなりません。トイレ職人こそが供給の原点なのです。しかしながら多くの場合、地域に一体何名のトイレ職人がいるのかが把握されていなかったり、トイレ職人の育成に予算を割く余裕がなかったり、と実際にトイレの建設を実施することが難しい場合があります。結果として、トイレの普及のために最も重要な部分がないがしろにされたままなのです。これを変えていくためには、国家が先陣を切って、研修を受けた熱意のあるトイレ職人を育成する役割を担う必要があります。
ガーナにおいて全国的にトイレの状況が劣悪である今、優れたトイレ職人は重要です。優れたトイレ職人がいれば、適切なトイレ、継続的で正しいトイレの利用、適切な手洗いや食品衛生管理の方法を広めることができ、ほとんどの糞口感染の病気を防ぐことができます。予防は治療に勝ります。ガーナでは今100万基以上のトイレが必要とされています。つまり政府は技術を持ったトイレ職人を数多く必要としているということです。今、まさにガーナには彼らが必要なのです。
ウォーターエイド・ガーナ ポリシーマネージャー、チャカ・ウゾンドゥ