【活動レポート・ブログ】母の日に寄せて:世界中の母親が直面する「水」の現実

5月11日の「母の日」、日本では、カーネーションの花束等の贈り物を母親に送ったり、家族で食事を囲んだりして、子供や家族が母親に対して日頃の感謝を伝える日です。母親たちにとっては、嬉しい時間を過ごすこともある、そんな特別な日ですが、世界にはまったく異なる「母の日」の朝を迎える母親たちが何百万人もいます。
蛇口をひねれば水が出るという当たり前のことが当たり前ではない地域では、「家族に安全な水を確保する」という重労働から1日を始める母親たちが多くいます。実際に、世界では女性と女の子たちが日々水くみに費やす時間を合わせると、1日で2億時間にもなると言われています。この記事では、「母の日」に寄せて、ウォーターエイドが活動する地域の母親たちにスポットライトを当ててご紹介します。
パプアニューギニア:ジェニファーさんのストーリー
パプアニューギニアで暮らす妊婦のジェニファーさんは、第二子を迎える準備をしています。しかしジェニファーさんの出産への道のりは、私たちの想像を超える困難に満ちています。
地域の診療所は8,500人以上の住民の暮らしを支えていますが、建物はシロアリに侵され、分娩室には衛生設備がありません。水タンクは錆びつき、汚染され、トイレも壊れ、水道もないため、ジェニファーさんは陣痛中でも茂みで用を足したり、川まで歩いて行ったりしなければなりません。
清潔な水がないことで感染症のリスクが高まり、出産に臨む母親たちは薬を飲むための水さえ持参しなければならない状況です。殺菌用の機材が使えない時、医療スタッフは医療器具を漂白剤で拭いて対応するしかなく、雨期にはあふれたくみ取り式トイレがさらなるリスクをもたらします。
「もし診療所に清潔な水があって、器具もきれいであれば、ここで出産しても安心だと思えます」とジェニファーさんは語ります。「でも、今はそうではありません」
ウガンダ:ハリエットさんの変化
ウガンダでは、ハリエットさんのような母親たちが、子供たちの命を守るために日々奮闘しています。
ウォーターエイドの支援前、ハリエットさんと子供たちは、汚れた水源を利用するしかありませんでした。その水源は、人だけでなく動物も水を飲みに来るような場所でした。その結果、腹痛や皮膚炎、頻繁に体調を崩すことが日常となっていました。ハリエットさんは、清潔な水が使えるようになる前を振り返り、こう語っています。
「他の村には水があるのに、自分たちの村にはないと知ると、本当に羨ましくて、まるでこの世界はあの人たちのもので、私たちはただの訪問者のような気がしました」
水を探し求める時間は、収入を得たり、子供たちと過ごしたりする時間を奪い、医療費が家計を圧迫し、学校の授業料や栄養ある食事に充てる余裕もありませんでした。
しかし今、安全な水を使えるようになったことで、ハリエットさんの暮らしは一変しました。今、子供たちはより健康になり、医療費の負担も減少し、水をくみに費やしていた時間は、将来への希望を築く時間へと変わりました。
カンボジア:スンさんの夢
カンボジアでは、33歳のスンさんが4人の子供たちと暮らしています。夫はタイで働き、できるときに送金していますが、清潔な水が使えない困難のなか、日々の生活の大部分をスンさんが担っています。
毎日、スンさんは近くの井戸や池に歩いて行き、水をバケツ1杯ずつくんでいます。見た目は透明なその水も、健康への不安が常につきまといます。末娘は、妊娠中の栄養不足や不衛生な水の影響で発育不良を抱えています。
「娘が生まれたとき、体重はわずか1.5kgでした。病院に連れて行きたかったけれど、交通費も払えませんでした」
スンさんは今も、自宅に給水設備が設置されるという小さな夢を抱いています。
すべての母親に、安全で清潔な水を
世界では、清潔な水やトイレがないことで、日々多くの困難と大きなリスクに直面せざるをえない母親たちがいます。
- 後発開発途上国では、毎年1,660万人の女性が、水や衛生設備が不十分な医療施設で出産しています(WHO/UNICEF, 2022)。
- 毎年100万人以上の女性と新生児が、不潔な場所での出産に関連する予防可能な感染症で命を落としています(WHO, 2020) 。
これから出産を控える母親、今まさに子育てをしている母親、どこにいたとしても母親たちが安心して子育てができるように。世界中すべての母親が自宅近くで安全な水を手に入れ、子供たちの命を守ることができる世界を目指して、ウォーターエイドは各国の現地パートナーや自治体等と連携し、活動しています。