【活動レポート・ブログ】マラウイ・ザンビア:清潔な水がコレラから年間4000人の命を救い、下痢性疾患を半減させる

ウォーターエイドは、アフリカ南部のコレラ多発地域におけるコレラ感染に関する新しい調査を発表。それによって、マラウイとザンビアでは、清潔な水と適切なトイレ、正しい衛生習慣がコレラ感染をなくし、下痢性疾患を50%減少させ、年間約4,000人の命を救うことが可能であることがわかりました。
さらに、データによって、コレラ多発地域において水・衛生に投資することで、マラウイとザンビア両国だけでも、合計16億米ドルという驚異的な額の支出を抑えられることもわかりました。これにより、緊急対応、ワクチン、医療費、収入減など、現在、コレラ感染によって生じている多額の費用を、両国の経済への投資として活用することが可能になります。
コレラは、コレラ菌に汚染された食物や水を摂取することで感染する急性の下痢性疾患で、致死的ではありますが、予防可能でもあります。今も、清潔な水、石けん、適切なトイレ、安全な排せつ物処理が不足している地域で感染が拡大しており、この調査結果は、コレラ多発地域にあるアフリカ南部が、次の雨期に向けてコレラ発生の急増を懸念する中で発表されました。
開発経済学者のガイ・ハットンが実施した今回の調査では、以下の事実が判明しました。
- 清潔な水、適切なトイレ、正しい衛生習慣によって、マラウイとザンビア両国のコレラ多発地域でコレラを根絶し、下痢性疾患を50%減少させ、年間4,000人の命を救うことが可能となる。
- コレラが猛威をふるう地域に対する水・衛生への投資によって、マラウイ、ザンビア両国で合計16億米ドルの支出を抑えることが可能となり、その資金を貧困削減やインフラ整備、医療、教育に活用することができる。
- コレラ対策にかかる多額の費用(緊急対応、医療費、収入減少、ワクチン接種など)を削減し、経済に再投資できる。
- コレラ流行地域の水・衛生を改善することで、ザンビアでは1850人の命を救い、同時に年間約10億米ドル(GDPの4.23%)を節約することが可能となる。
- マラウイでは、同様の取り組みにより、1741人の命を救い、同時に年間5億9,400万米ドル(GDPの4.19%)を節約することができる。
- コレラの流行地域でのコレラやその他の下痢性疾患の医療費は、マラウイでは1人当たり3.3米ドル、ザンビアでは11米ドルと推定され、それぞれの国における国家保健医療支出の2.5%と6.1%に相当する。
- コレラ流行地域の水・衛生への1米ドルの投資に対し、10米ドルのコスト削減効果が得られる。コスト効率の高いこの解決策は、持続的な変化をもたらす。
ウォーターエイドは、こうした状況を受けて、マラウイとザンビア全土で、貧困に苦しむ人々が、清潔な水と適切なトイレを使い、衛生習慣を実践できるよう活動を続けています。2024年6月、ウォーターエイドはザンビアの首都ルサカにあるコレラ多発地域であるシルビア・マセボのコミュニティと協力し、井戸からくみ上げた安全な水を貯留するための1万リットルのタンクを3基設置。そこから10か所の水くみ場を通して、人々に給水し、7000人以上が1日3万リットルの清潔な水を利用できるようになりました。また、世界的にも有名なマラウイ湖から25kmほど内陸に入った農村部、チンガンジ地域の人々は、2022年にマラウイで発生したコレラによって深刻な被害を受けましたが、ウォーターエイドは、現在、この地域で清潔な水を利用できない生活を送る305世帯が水・衛生を利用できるようになることを目指し、支援を呼びかけています。
コレラのまん延を食い止めることは可能です。実際、日本でも明治時代にはコレラが流行し、多くの人が命を落としましたが、上下水道の整備による水・衛生の改善によってコレラを制圧することに成功しました。今回の調査結果をもとに、ウォーターエイドは各国政府に対して、コレラ根絶を国際的な優先課題とし、水と衛生への投資を拡大するよう呼びかけています。
アフリカ南部アドボカシー・マネージャーのモアブレシングス・チダウシェは次のように話しています。
「50年以上もの間、コレラは予防可能であるにもかかわらず、アフリカ南部全域の人々の生命と生活に壊滅的な打撃を与えてきました。特に貧困なコミュニティにおいて今も清潔な水とトイレが利用できない、という深刻な社会的不平等を露呈してきたと言えます。
ウォーターエイドの新たな調査によって、コレラや水媒介の病気が政府に何十億ドルもの損失を与え、救えたはずの何千人もの人々の命を奪っていることがあらためて証明されました。この状況を放置する訳にはいきません。今こそ、コレラを歴史の教科書以外には存在しない病気にするために、断固とした決断を下す時なのです。
各国政府が基本的な水・衛生設備への投資を優先することこそが、もっとも小規模ながらもっともコスト効率の良いコレラの根絶方法です。水は希望です。持続可能な開発目標(SDG)のゴール6の達成に向けて、今こそ水への投資を優先すべきです」
ウォーターエイドは、コレラが猛威を振るう地域に暮らす医療従事者やコレラで大切な家族を亡くした人々にも直接話を聞きました。
ザンビアの首都ルサカにあるマテロ・一次レベル病院の看護師で助産師でもあるサンゲさんは、2024年初めのザンビア史上最悪のコレラ流行時の経験を語りました。
「他の病棟からも看護師をかき集めていました。助産師までもがコレラ患者治療のために設置されたテントで看護師として働きました。予防可能であるにもかかわらず、大勢の人がコレラで亡くなりました。看護を続ける中で患者に親しみを感じるようになるものですが、治療を受けていたはずの人が、いつの間にか命を落としているという状況でした」
マラウイのマンゴチ県、チンガンジに暮らすチフニロさん(19歳)と姉のクリスティーナさん(22歳)は、2022年のコレラ大流行の際に、2人を育ててくれた祖母のモデスタさんを亡くしました。2人はそのときの体験について次のように話します。
「コレラを発症した日の朝、祖母はいつも通り元気な様子で農作業に出かけました。
私たちが草取りを終えて戻ると、祖母が腹痛を訴えました。私が薬を買いに行って来ると、下痢と嘔吐が始まっていました。祖母の具合が悪いことを姉に伝え、叔母にも知らせに行きました。皆で一緒に戻って来ると、祖母は口もきけず、雨の中で横たわっていました」
チフニロさんの叔母は、モデスタさんを地元の保健医療施設に連れて行きましたが、モデスタさんの容態はさらに悪化しました。
「叔母が食事を持って行くと、祖母は『私はもう長くないと思う。子供たちに互いを大切にするよう伝えて』と言って倒れました。その瞬間に亡くなったのだと思います。祖母はたった1日入院しただけで亡くなりました」