【活動レポート・ブログ】バングラデシュ:沿岸地域における新型コロナウィルス感染症と水不足への対応

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ノートルダム・グローバル適応力指数(Notre Dame Global Adaptation Index)により、気候変動に対し最も脆弱で適応力がない国36位に位置付けられているバングラデシュ。この国の沿岸部に住む人々は、すでに気温上昇やサイクロン等の自然災害の頻発など、気候変動の影響を受けています。

ウォーターエイドは2016年に、気候変動の影響を受けやすく、水不足に見舞われがちなシャムナガル郡で活動を開始。雨水活用設備や逆浸透膜を利用した給水設備等、コミュニティの状況に合わせて異なるタイプの給水設備を設置し、維持管理のしくみを構築しました。

しかし今年、シャムナガル郡は、新型コロナウイルス感染症の拡大と長引く乾期に直面。すべての人々が清潔な水を利用できるようにするために、ウォーターエイドがとった対応を、ウォーターエイド・バングラデシュの気候変動対応プロジェクトオフィサーのアンコン・アイバン、気候変動対応プロジェクトマネジャーのサイフ・マンゾール-アル-イスラム、プログラムディレクターのフセイン・I・アディブが解説します。

西はスンダルバンス地域、南はベンガル湾に囲まれたシャムナガル郡は、バングラデシュの中でも最も気候変動の影響を受けやすく、水不足の地域の一つです。この地域は定期的に干ばつやサイクロンに見舞われ、管井戸などの重要なインフラが破壊されているだけでなく、その後の高潮や海面の上昇により、水源の塩分濃度が高まり、飲用に適さなくなってきています。

そのため、住民は、水源を雨期の水に頼らざるをえず、バケツなどの容器に雨水を貯めたり、この地域に数少ない淡水の池から水を汲んだりしています。しかし、これらの池の多くは、20~30世帯で共有されていたり、私有地であったり、魚の養殖に使われていたりして、水を飲むには危険な状態です。また、季節的な干ばつの際には、池が干上がり、小さな水たまりに泥だらけで不衛生な水がわずかに残っているだけになります。

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季節的な干ばつの際には、限られた淡水の池が完全に干上がってしまいます。

ウォーターエイドは、2016年にシャムナガル郡で活動を開始。気候変動に強く、誰もが使うことができる、異なるタイプの給水インフラを設置することで、人々が清潔で安価な水を利用できるようにしました。クルナ管区に拠点を置く現地NGOルパンタールと連携し、半透膜と高圧ポンプを使って汚染された水を浄化・脱塩する逆浸透膜を利用した給水設備を複数建設しました。また、手動でポンプを使って池の水をくみあげ、砂フィルターユニットに水を通して浄水する「ポンド・サンド・フィルター」を建設したほか、雨水活用システムを地域の診療所や36の学校とマドラサ(宗教学校)に設置しました。

ウォーターエイドは、こういった技術を予測モデルや水の消費レベルの推定、最適な場所の調査などに基づいて開発し、年間を通じて水を利用できるようにしています。また、長期的にこれらの給水設備を利用できるように、地域の女性たちに経理などのビジネス関連のスキルや、逆浸透膜利用の給水設備の運転・維持管理のトレーニングを実施しています。

しかし、こういった技術にも限界がありました。ポンド・サンド・フィルターが機能するのは、池に十分な水がある場合に限られます。また、逆浸透膜利用の給水設備は効果的である一方、乾期の間は24時間稼働したとしても、シャムナガル郡の水需要の一部を満たすのみ、という状況でした。逆浸透膜利用の給水設備を利用する際、住民は水道料金を支払う必要がありますが、低所得世帯が、経済的にとても困窮した際に、給水設備から得る水の量を減らし、池や水たまりからくんできた水をそのまま使っている、ということもありました。池の残り水や塩分を含んだ水を使わなければならない場合、特に女性や子供たちは、皮膚感染症や下痢、赤痢に感染するリスクにさらされます。

このような技術の限界と、気候変動の影響に対するシャムナガル郡の脆弱性は、今年の初めにさらに浮き彫りになりました。シャムナガル郡は新型コロナウイルス感染症の拡大に見舞われていただけでなく、2020年8月から2021年4月までの9ヵ月間、雨が降らなかったのです。池は干上がり、地下水は過剰に汲み上げられ、社会における緊張状態が表面化して、水くみを待つ人々が口論になる光景も見られました。

Sadia collecting water from the PSF (Pond Sand Filter) project. The water in the Shyamnagar region is saline, and so it is unsafe for drinking. PSF is a simple technology in which water is pumped from a pond and passed through a number of chambers con ...
ポンド・サンド・フィルター(*)から水をくむサディアさん(バングラデシュ)*池に貯めた水を浄水する装置。
Image: WaterAid/ DRIK/ Habibul Haque

住民が使える水の量が少なくなり、雨が降らない状況の中、ウォーターエイドは解決策をいくつか実行に移しました。ウォーターエイドが2018年から2020年の間に設置した学校の雨水貯留システムを、近隣の住民も利用できるようにするよう、学校運営委員会やシャムナガル郡の12の組合の議長、地域の当局に働きかけました。新型コロナウイルス感染症の拡大を食い止めるための政府命令により、2020年3月から学校は閉鎖されていたため、雨水貯留システムには、2020年4月から8月に降った雨水がタンクいっぱいに溜まっていました。このシステムは60万リットルの容量があり、十分な水量があったのです。

この取り組みは、2021年4月下旬に3つの学校で試験的にスタートしました。学校に隣接する世帯は、1日おきの午前中にそれぞれ10リットルの水をくむことが可能になり、前日に名前を登録しておくことで、人々は混乱なく水をくむことができました。学校運営委員会が選出したボランティアが進捗状況を管理する仕組みもうまく機能しました。雨水活用システムを導入している他の33校も、このスキームの成功と地域社会へのメリットを実感すると、すぐにこの取り組みを開始し、近隣住民が水を得られるようになりました。新型コロナウイルス感染症の予防措置として、対人距離の確保や健康・安全対策をとりつつ、合計すると、1日あたり平均5,000世帯が36校から水を得ることができるようになりました。

このスキームは、2021年5月26日にこの地域を襲ったサイクロン「ヤアス」の影響を抑えることにも役立ちました。サイクロンによって給水インフラが破壊されると、住民たちは長期間、安全な飲料水が得られなくなります。そこでウォーターエイドは、雨水活用設備を用いて人々がサイクロンによる大雨の水を貯めるよう支援しました。また、学校運営委員会も、間もなく授業が再開されることを想定し、学校の雨水貯留施設を活かして十分水を確保することができました。

この取り組みを通じ、各方面と適切な協力関係を築くだけで、清潔な水が必要な地域の緊急ニーズへの対応が適ったことに、手応えを感じました。この仕組みは、危機に際して、従来型のアプローチにどのような手法を持ち込めば良いかを示す一つのヒントになるでしょう。気候変動の影響が日に日に深刻化する中、今後も同様の干ばつが起こることが予想されますが、今回の危機対応は、シャムナガル郡の水需要を満たすに当たってどんな行動や連携が推奨されるのかを示唆しています。

このレポートは、ウォーターエイド・バングラデシュの気候変動対応プロジェクトオフィサーのアンコン・アイバン、気候変動対応プロジェクトマネジャーのサイフ・マンゾール-アル-イスラム、プログラムディレクターのフセイン・I・アディブのレポートを、ウォーターエイドジャパンで編集したものです。オリジナルはこちら(英文)