【活動レポート・ブログ】笑顔で出産を迎えられる-水・衛生の改善がタンザニアの助産師の力に

Nyaganga Juma Samuel, 37, nurse and midwife, holding a newborn baby which she helped mother Susan Magoma (L), 32, deliver last night, Nyamalimbe Dispensary, Geita District, Tanzania, June, 2019.
Image: WaterAid/ James Kiyimba

「今、私は笑顔で新たな命を迎えることができます」と、タンザニア北部のゲイタ州の助産師、レジーナ・カサンダさんは言います。

「私たちの診療所には、十分な水、新しいトイレ、母親がシャワーを浴びるためのバスルームがあります。出産するために多くの女性が診療所に来るようになりました。そして、診療所に長く滞在したいと望みます」

しかし、ウォーターエイドのプロジェクトが実施される前は、診療所の状況はかなり違っていました。カサンダさんは言います。

「最も近い水源は2キロ離れたところにありました。病院や医療機器をきれいにするのに十分な水がないことがたびたびありました。それは危険な環境で、安心して仕事をすることはできませんでした」

ゲイタ州は農村地域。多くの助産師が、劣悪な水・衛生環境の中で働いています。水の供給が不十分で、頻繁に干ばつが発生し、都市から離れたこの地域では、母体と新生児の健康の問題は深刻でした。

 

母親、新生児、医療従事者が感染症の危機に

清潔な水も、適切なトイレも、正しい衛生習慣もない状態で、質の高い医療を提供することは、全く不可能ではないにしてもかなりの困難を伴います。感染症は簡単に広がり、母親、新生児、医療従事者の命を危険にさらす可能性があります。

ゲイタ州では、40%の女性が知識と経験を持った助産師などのもとで出産し、出産の50%は保健医療施設で行われているものの、適切な感染予防体制のある保健医療施設は33%にとどまっています。

保健医療施設の状況が劣悪なため、多くの女性が自宅で出産することを選んでいました。調査を行い、なぜ保健医療施設で出産したくないと思ったかを母親たちに尋ねたところ、「入浴のための水がない」「清潔なシーツや衣類がない」「劣悪な衛生環境」「医療従事者が適切な衛生管理を行っていない」などの理由が挙げられました。

「水がないために早期に退院した」「出産で血まみれになった服を着て歩いて帰った」などの例も珍しくありませんでした。

分娩台や手術器具をきれいにする水がなければ、看護師や医師は思うような医療サービスを提供することができません。仕事への充実感や意欲も感じられなくなります。

助産師のニャガンガ・ジュマ・サミュエルさんは「仕事は本当に大変でした。最低限のことしかできませんでした」と話す
助産師のニャガンガ・ジュマ・サミュエルさんは「仕事は本当に大変でした。最低限のことしかできませんでした」と話す
Image: WaterAid/ James Kiyimba

衛生状態が悪く、医療関連感染の発生が増加したため、ゲイタ州の保健医療施設では入院時にすべての女性に抗生物質を与えることが普通になりました。これは抗生物質の誤った使用法で、薬剤耐性の脅威を増大させます。問題の解決には、水・衛生の改善が不可欠です。

 

水・衛生の改善で施設での出産件数が2倍に

過去4年間、ウォーターエイド・タンザニアは、アフリカの保健医療の改善に取り組むAMREF Health Africaと共同で、地域内にある12の保健医療施設の水・衛生のアクセス改善を図り、ゲイタ州の保健医療の状況を変えてきました(*1)。

具体的には、次のようなことに取り組みました。

  • 太陽光発電を利用した雨水の貯水や井戸の整備
  • UV殺菌を用いた水処理
  • 手洗い設備、トイレ、シャワーの設置
  • 保健医療施設や学校、コミュニティを対象とした、衛生習慣の普及のためのキャンペーンや啓発
  • 看護師や助産師など医療従事者を対象とした、母子保健についてのトレーニング
  • 新しい産科病棟と手術室の建設

水・衛生の設備と、感染予防対策、患者のケアに関するトレーニングを通して、看護師や助産師は安全で質の高いサービスを提供できるようになりました。医療従事者は環境を清潔に保ち、石けんで手を洗うなど、正しい衛生習慣を実践するようになり、感染拡大のリスクを低下させることができました。

その結果、プロジェクトの対象の5つの保健医療施設では、以前と比べて、出産のために来る女性の数は2倍になり、より多くの女性が産前・産後のケアを受けるようになりました。また、2年前に19例が報告されていた出産時の敗血症(*2)の症例は、1件もなくなりました。

 

2020年は「看護師と助産師の年」

2020年は、ナイチンゲールの生誕200年の年です。世界保健機関(WHO)は、2020年を「看護師と助産師の年」と名付けました。ウォーターエイドも、困難な状況で働き、命を守る活動を続ける看護師や助産師を応援しています。水・衛生をはじめとする環境が整えば、看護師や助産師は母親と赤ちゃんのためにさらに大きな役割を果たしてくれるでしょう。

母親と子供の健康に命を捧げる人の安全と尊厳を確保するため、ウォーターエイドは、すべての保健医療施設が適切な水・衛生環境にアクセスできる世界を目指します。

 

(*1) この取り組みは、グローバル・アフェアーズ・カナダの協力も得て実施されました。

(*2) 敗血症は、細菌(病原菌)の感染・繁殖により、全身の臓器に障害をきたす病気。

 

このレポートは、ウォーターエイド・タンザニアのKarlye Wongのレポートを、ウォーターエイドジャパンで編集したものです。オリジナルはこちら(英文)