HSBCと協力し、衣料産業における水・衛生改善への投資の効果を検証

Zarina Begum does Chikankari embroidery work outside her house in the Bharat puri slum settlement. Like many others living in her community, Zarina is a daily wage labourer, and therefore misses out on work when she falls sick. Zarina is paid approxim ...
Image: WaterAid/Sharbendu De

4月24日は、ファッションレボリューションデーです。2013年のこの日、バングラデシュのダッカ近郊で、多くの衣料工場が入った「ラナ・プラザ」が崩落し、1,000人以上の労働者が亡くなった事故をきっかけに、人にも環境にも配慮したファッションを考える日となっています。ウォーターエイドの取り組みから、衣料産業と水・衛生の改善について考えます。


衣料産業が変われば世界が変わる

衣料産業は世界全体のGDPの2%を占めています。そのため、衣料産業が変われば、環境や経済、社会問題に大きな影響を与えます。ウォーターエイドの民間セクターアドバイザーのルース・ローマーは「この産業が収益だけではなく、労働者の権利や賃金の向上に真剣に取り組んでいるのであれば、この産業にかかわるすべての労働者の水・衛生へのアクセス改善にも焦点を合わせなければなりません」と話します。

ビジネスリーダーとH&M、Nikeなどの主要ファッションブランドは、2019年1月にスイスのダボスで開催された世界経済フォーラムで、職場での人権を守るCEOアジェンダ2019に署名し、労働条件の改善に向けた一歩を踏み出しました。

しかし、非常に残念なことに、そのアジェンダには、労働者にとって重要な水・トイレ・衛生的な環境へのアクセスの確保という観点が含まれませんでした。これらは、「社会的な評価を受ける安全な職場環境」を確保する上で、基本的な要素です。これらが確保されなければ、他の前向きな変化もかすんでしまうでしょう。


インド・バングラデシュで新たな取り組みを実施

衣料産業において、水・衛生の改善への投資によってどれくらい収益が向上するのかを明確にし、その効果を証明するため、ウォーターエイドは、ディアジオ、Gap、ユニリーバの支援を得て、「ビジネスと水・衛生の強化」の指針(The business case for action on WASH)を改訂しました。この指針は、ディアジオ、Gap、ユニリーバによって試験運用され、HSBCによって検証されています。

2018年6月、HSBCとウォーターエイドは、「持続可能なサプライチェーンプログラム」の一環として、バングラデシュとインドの24の衣料品工場、ならびにこれらの工場の労働者が生活するコミュニティで、水・衛生サービスを提供する新たな3年間のプロジェクトを開始しました。対象は、小規模な職人コミュニティから、大規模な織物や皮革の工場まで広がっています。このプロジェクトでは、労働者の生活と労働条件を改善することに加えて、水・衛生への投資が経済的な利益につながることを証明し、多くの企業が水・衛生の改善に投資するようになることを目指しています。

インド伝統のチカン刺繍でわずかな収入を得るザリナさん(40歳/上部写真)は、同じような刺繍職人が集まるインド北部のラクナウにあるバラット・プリのスラムで生活しています。現在約4,500人が住むこのコミュニティには、トイレが2つしかありません。

表面を刺繍するには、2日間かかります。この作業でザリナさんは約100ルピー(約160円)を稼ぎます。1ヵ月でザリナさんは1000ルピー(約1,600円)を稼ぎます。しかし、不衛生な水を飲んだり、手を洗うことができなかったりして、病気になってしまえば、彼女は時間通りに仕事をすることができず、納期に間に合わなかったために1ルピーすらもらうことができません。

Haseena Bano, 35, pictured with her daughters, lives in a slum settlement called Budhiya Ghat by the banks of river Ganga, India, December 2018.
ガンジス川沿いのスラムで生活するハシーナアさん
Image: WaterAid/Sharbendu De

ハシーナア・バノさん(35歳)は、コミュニティの99パーセントが皮なめし工場で働いているガンジス川沿いのスラム、ブディヤ・ガットに住んでいます。家庭用の水道はなく、トイレもないので、野外で用を足すしかありません。村の人々は、汚れたガンジス川の水を飲んだり、その水で体を洗ったりするために、腹痛や頭痛、皮膚の感染症に悩むことがよくあります。ハシーナアさんの夫、ムバラクさんは、皮なめし工場でわずかな賃金で働いていますが、病気になると働くことができず、彼らの生活はさらに困窮します。


清潔な水と適切なトイレがあれば

小規模の職人コミュニティで働いているか、大きな工場で働いているかによらず、衣料労働者が健康で不安のない状態で働き続けられれば、ミスや欠勤が減り、生産性の向上や経済的利益の増加につながります。それは、製品の供給を受ける大手ブランドにとっても、より安心で信頼できるものになるとウォーターエイドは考えます。

労働者の職場や生活の場の水・衛生の改善に投資することによって、企業も利益を受けることができるのです。

ウォーターエイドジャパン事務局長の高橋郁は「清潔な水と適切なトイレがあれば、インドやバングラデシュの労働者や彼らの家族の生活は大きく変わります。日本で販売されているファッションの中にも、インドやバングラデシュで原材料や製品が生産されているものが増えており、日本の衣料産業の方にも消費者のみなさんにも、ぜひこの問題に関心を持ってほしい」と話しています。


※このレポートは、ウォーターエイドの民間セクターアドバイザー、ルース・ローマーのレポートをウォーターエイドジャパンが翻訳・編集したものです。オリジナルはこちら(英文)。
The thirst for fashion must first quench the industry workers’ need for water