【活動レポート・ブログ】シエラレオネ・モザンビーク:3年間の水・衛生プロジェクトの成果と新型コロナウイルス感染症対応

Aerial view of Tombohuaun, showing the new circular water pump in Tombohuaun, Kailahun District, Sierra Leone, January 2018.
Image: WaterAid/ Nana Kofi Acquah

2020年前半、新型コロナウイルス感染症が世界的に拡大した際、ウォーターエイドは、その当時実施中の多くの水・衛生プロジェクトについて、引き続き清潔な水の供給に力を入れつつ、手洗い等の衛生行動の促進に注力するアプローチをとりました。ウォーターエイド・イギリスのUKエイドマッチプログラムマネージャーであるバート・トルハーストは、シエラレオネとモザンビークでこのたび完了した3年間の水・衛生プロジェクトについて、どのように新型コロナウイルス感染症の拡大に対応すべくアプローチを変えていったかについて振り返ります。

アフリカ西部に位置するシエラレオネ。ウォーターエイドが活動するカイラフン県では、10人に7人が清潔な水を、10人に9人が適切なトイレを利用できません。アフリカ南部に位置し、太平洋に面する国モザンビーク。半数近い人々が清潔な水を使うことができない状態で生活しており、10人に6人は適切なトイレを使えません。この両国では、不衛生な水によって下痢を発症し、命を落とす子供たちが多くいます。多くの人々が、自分の子供や兄弟・姉妹を下痢によって亡くしています。

2017年から2018年の冬、ウォーターエイドはシエラレオネ東部のトンボフーワン村のコミュニティにおける過酷な水・衛生の状況を紹介し、この状況を改善するためのご協力を皆様に呼びかけました。日本では、2017年冬の「冬募金」として皆様にご支援をお願いしました。多くの皆様よりご支援いただき、ウォーターエイドは、シエラレオネのトンボフーワン村を含むカイラフン県、そしてケネマ県、プジェフンン県、さらにモザンビークのメカニェラス郡とクアンバ郡の計約94,000人の人々が清潔な水とトイレを使い、衛生習慣を実践できるようにするための3年間の水・衛生プロジェクトを開始しました。

あらゆる角度からのアプローチ

支援の効果を一過性のものにしないために、ウォーターエイドはこのプロジェクトにおいて、あらゆる角度から水・衛生へのアクセスを改善することを目指しました。コミュニティや学校、診療所などの保健医療施設で行った活動は次のとおりです。

  • 給水設備とトイレの新設または修繕
  • 手洗い等適切な衛生習慣の促進
  • コミュニティの人々が、清潔な水とトイレを利用すること、適切な衛生習慣を実践することは、すべての人々が持つ権利であることを理解し、その権利を主張できるようにするための啓発
  • 政府の水・衛生関連部署や水・衛生サービスを担当する事業者等、水・衛生セクターの調整とガバナンスの改善

一連の活動を通じて目指したのは、清潔な水がない、トイレがないといったコミュニティの当面のニーズに対応するために、給水設備・トイレを設置・修繕すると同時に、水・衛生セクターの改善等、地域の水・衛生の状況が、現地の政府・機関やコミュニティによって改善されていくよう、その地域のしくみを構築することでした。井戸やポンプ、パイプなどの給水システム、手洗い場、トイレといったインフラは、水・衛生関連の省庁や水道事業体、コミュニティの水管理委員会など、水・衛生セクター全体がしっかり機能して適切に維持管理することで、より効果的に、より長く使えるようになります。また村の人々が、水・衛生は自分たちの権利であることを理解し、地域に給水システムがない場合、または給水システムがあったとしても故障している場合には、水を供給するよう要求していけるようにすることも重要です。さらに、衛生習慣は、水とトイレの効果をさらに高めるために不可欠であるため、ウォーターエイドが以前より力を入れてきた分野です。2020年、新型コロナウイルス感染症が拡大したことによって、衛生習慣に取り組む緊急性がさらに高まりました。

 

そして、新型コロナウイルス感染症が大流行

handwashing stations in mozambique
ウォーターエイドがモザンビーク・ニアサ州メカニェラス郡の公共の場に設置された手洗い設備

新型コロナウイルス感染症の危機が迫ってきたのは、2020年春、3年間プロジェクトが中盤を迎えた頃でした。シエラレオネとモザンビークではロックダウンが実施されたため、ウォーターエイドは事務所を閉鎖し、スタッフは自宅で仕事をするようになりました。移動や物理的な接触が制限されたため、多くのプロジェクトで遅れが生じたり、一時的に停止したりしました。

そのようななか、ウォーターエイドは、このパンデミックに対応するために、当時ある予算の範囲でできること、従来の計画を変更して取り組むべきことの検証から始めたほか、イギリス政府等のドナー機関やパートナーとの協議も進めました。特に優先したのは、人々の命をパンデミックから守るために給水・衛生サービスを提供し続けること、ウイルスへの感染を減らすこと、そしてスタッフやパートナー、コミュニティの安全を守ることでした。

ウォーターエイドは、活動のアプローチを即座に切り替え、低コストの給水設備を迅速に設置していくことで、脆弱なコミュニティが清潔な水を利用できるようにしました。また、衛生行動の改善を強化・再重点化し、手洗いに加えて人と距離を保つことなど、政府が承認した、新型コロナウイルス感染症特有の新たな衛生関連メッセージを取り入れたり、政府主導の緊急対応の調整やモニタリングをサポートしたりしました。
 

手洗い等の衛生習慣を前面に

シエラレオネとモザンビークにおいて、新型コロナウイルス感染症がさらに拡大し、ロックダウンなどより多くの制限が課される中、ウォーターエイドは、現実的かつ安全に何ができるのか検討しながら活動を続けました。当面の優先事項は、公共の場に手洗い設備を増設することと、保健医療施設に衛生キットを配布することでした。その際、スタッフや建設作業に携わるチームを守るために、個人用防護具の使用や人との距離の確保など、新型コロナウイルス感染症の流行時における安全確保の手順を策定し、団体内で徹底するようにしました。

さらに、手洗い等の衛生行動をさらに促進するため、地元のラジオ局と協力して感染対策を発信したり、地元の携帯電話会社と協力してテキストメッセージで情報を送ったりもしました。また、地域のコミュニティ活動に携わっている人たちやシエラレオネの伝統的な「タウンクライヤー(公的な情報を人々にアナウンスして回る“町の触れ役”)」を対象に研修を実施し、研修を受けたメンバーが、家庭訪問したりメガホンを使って呼びかけたりすることで、対象コミュニティの衛生習慣促進を進めました。学校や保健医療施設でも、生徒や職員を対象に、衛生や感染予防に関するトレーニングを実施しました。学校での活動は、学校を再開したり、試験の準備に入ったりしたため、とりわけ緊急性が高いものとなりました。
 

プロジェクトの成果

handwashing stations at caronga school in mozambique
モザンビーク・ニアサ州メカニェラス郡のカロンガ小学校に設置した手洗い設備

この3年間のプロジェクトは、2021年7月に終了しました。世界的な感染症拡大によってかつてない規模の混乱が起きているにもかかわらず、当初予定を上回る成果を上げることができました。皆様より頂戴したご寄付によって、121か所のコミュニティ、学校25校、保健医療施設20か所において、給水設備とトイレを新設または修理することができました。この結果、98,690人が清潔な水を、77,561人が適切なトイレを利用できるようになり、65,838人が衛生習慣を実践することができるようになりました。また、この65,838人のうち7,239人の生徒と219人の医療従事者が衛生に関するトレーニングを受けました。

今後に向けて、水・衛生分野の計画立案や調整をさらに改善していくことを目指し、シエラレオネ、モザンビーク両国において分野横断的な水・衛生フォーラムを定期的に開催することになりました。また、トレーニングを通じて、コミュニティを基盤に活動する団体10団体がこのフォーラムに参加し、水・衛生の改善にさらに取り組むよう、政府に働きかける活動を支援しました。さらに、96,000人の人々が水と衛生は人権である、ということについて理解を深めるための研修に参加しました。

新型コロナウイルス感染症のパンデミックによる危機的な状況においても、各国のチームと現地パートナーは、高いレジリエンス(回復力)と適応力を持って活動を進めることができました。

このレポートは、ウォーターエイド・イギリスのUKエイドマッチプログラムマネージャーであるバート・トルハースト(Bert Tolhurst)のレポートを、ウォーターエイドジャパンで編集したものです。オリジナルはこちら(英文)