【活動レポート・ブログ】マダガスカル:JICAとの連携事業「国際NGOとの連携による学校・保健施設の衛生行動改善に関する情報収集・確認調査」現場視察

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Image: WaterAid Japan

2021年9月から2024年8月までの3年間、ウォーターエイドは独立行政法人国際協力機構(JICA)との協働で、「国際NGOとの連携による学校・保健施設の衛生行動改善に関する情報収集・確認調査」をタンザニア、マダガスカル、ネパールの3か国で実施しました。この事業では、3か国の学校74校、保健医療施設45か所の合計119施設を対象に、①給水設備とトイレ、石けんと水を備えた手洗い設備などの整備、②現地の状況に合った衛生行動改善の取り組み、③その取り組みの前後で、保健医療施設のスタッフや学校に通う生徒たちの衛生行動がどのように変わったかの調査を行いました。

2020年に全世界で新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行が始まって以来、手洗いと衛生の重要性が改めて認識されています。しかしながら、知識を増やしても、それが必ずしも持続的な衛生行動の実践につながるわけではありません。行動の変化を起こすには、知識だけでなく、そこに焦点を当てた働きかけが不可欠です。

この事業では、「ナッジ」と呼ばれる“ついやってみたくなる”工夫を凝らし、トイレから手洗い設備に向かう足跡マークを床に描く、手洗いや掃除を促すステッカーに指差しマークを添えて目立たせる、種類別に色分けしたゴミ箱で分別を促す、手洗いするタイミングでベルを鳴らす、といった方法で衛生行動の浸透を図りました。

事業の終了から6か月経った2025年2月、ウォーターエイドジャパンのプログラム・コーディネーター木藤とウォーターエイド・マダガスカルのスタッフが、アナラマンガ県にあるマハボ小学校とアントサハマロ保健センターを訪問しました。どちらも首都アンタナナリボから車で約2時間の距離にありますが、舗装道路は途中から未舗装の細い山道に変わり、4WDでなければ交通の難しい場所にありました。
 

マハボ小学校全員で手洗いに取り組み、生徒の欠席も減る

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マハボ小学校で、衛生行動を記したうちわを持って、手洗いソングを歌う生徒たちの出迎え
Image: WaterAid Madagascar

マハボ小学校に到着すると、生徒たちが列を作って並び、衛生行動を記したうちわを振りながら、”トイレの後は必ず手を洗います…“と、手洗いソングを歌って出迎えてくれました。学校では、ラソアリマララ校長先生と5名の先生が165名の生徒を受け持っています。校長先生によれば、本事業での取り組みの結果、生徒たちは、教室に入る前、トイレの後、給食の前などの手洗いの必要なタイミングで、必ず手洗いをする習慣を身につけたそうです。

授業が始まる前に、生徒たちが一斉に手洗い場で手を洗う中、マラガシ語(マダガスカルの現地語)で” Izay madio, mamiratra(清潔で輝いている人)“と書かれたリストバンドを着けている生徒がいました。このキャッチフレーズは、ウォーターエイド・マダガスカルのイニシアチブでつくられた行動変容を起こすための標語です。リストバンドは、校内での衛生活動に優れた生徒に贈られたもので、その生徒たちは衛生行動のチャンピオンです。

今では生徒たちは、自分の家での食事の前に、家族にも「ちゃんと手洗いをして」と指導するようになり、中には、親が自分の持ち物に触るときに「手を洗ってから触ってほしい」と頼む生徒もいるそうです。校長先生の説明では、こうした全校での意識と習慣の徹底は、健康状態の改善にもつながり、以前に比べて病気で学校を休む生徒が減ったとのことです。
 

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生徒たちは、足跡マークに沿ってトイレから手洗い場まで移動して手を洗う
Image: WaterAid Japan
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現地語で” Izay madio, mamiratra”(清潔で輝いている人)と書かれたバンドを身につけて、手洗いをする生徒
Image: WaterAid Madagascar

手洗い場やトイレの清掃は、先生と年長の生徒たちが協力して行っており、校内全体の掃除も行き届き、清潔に運営されていました。校長先生は、誇らしく語ります。「この事業の対象校に選ばれたことは、いつも水の確保に悩んでいた自分たちにとって大変な幸運でした。給水設備とトイレ、手洗い場が整い、先生と生徒たちで衛生行動を毎日実践するように努めてきました。そして、この小学校は、健康で安全な学校になりました。私たちの取り組みが地域のモデルになるように、皆で頑張っています。」

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校長先生と、衛生行動のうちわを持つ生徒
Image: WaterAid Madagascar

保健センターの清潔な環境は、スタッフの自信を高め、センターの運営も改善

次に訪れたアントサハマロ保健センターでは、医療スタッフのラザナティアナさんが出迎えてくれました。マダガスカルでは、住民が体調不良のときなどにまず行くのが、コミュニティに設置されたヘルスポスト(小規模な診療所)、そして、ヘルスポストでは対応できない診療や治療に対応する上位の保健医療施設が保健センターです。アントサハマロ保健センターは、医師1名、助産師1名を含む7名の医療スタッフで運営されています。1日60名ほどが受診で訪れ、最も多い患者は、ほこりなどによる呼吸器の疾患、次が下痢だそうです。

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アントサハマロ保健センターの屋外に設置された手洗い場。床に足跡マーク、蛇口のそばに指差しマークがある。
Image: WaterAid Japan
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分娩室。奥の手洗い場に衛生行動を促すステッカーが貼ってある。
Image: WaterAid Japan

保健センターの診断室、分娩室などすべての部屋に、衛生行動を示すステッカー、手洗いを促す指差しマークが貼られています。本事業を通じて衛生行動の重要性を理解したスタッフたちは、スタッフ同士で手洗いの励行を確認するのはもちろんのこと、患者や訪問者に衛生行動の大切さを説明し、徹底を促すことを心掛けているとのことでした。水・衛生設備が整備され、保健医療施設になくてはならない清潔な環境を維持できることで、スタッフ全員が自信を得て、施設を訪れる住民の信頼も高まり、それが保健センターの運営の改善にもつながるという、好循環をもたらしているとのことです。

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保健センターの活動について説明を受ける。
Image: WaterAid Madagascar

ラザナティアナさんの机の上にも、” Izay madio, mamiratra(清潔で輝いている人)“の標語と衛生行動を記した紙のスタンドが置いてあります。私たちの訪問の間、ずっとにこやかな笑顔で接してくれるラザナティアナさんに、「あなたのモチベーションの秘訣は何ですか」と尋ねたところ、「ここで働くこと、笑顔でいることが私の証しなのです」と、明快で自信に満ちた答えが返ってきました。

厳しい環境でも懸命に取り組む人々と協働していく

マダガスカルは、ユニークな生態系で多くの観光客を魅了している国ですが、今なお国民の80%、2,400万人が1日2.15ドル未満で暮らす極度の貧困状態(世銀、2023年)にあります。人口の47%が改善された水源にアクセスできておらず、83%が改善されたトイレを利用できず、73%が適切な衛生行動を実践できていません(マダガスカル政府水・衛生省、2021年)。

近年、気候変動の影響によってサイクロンが毎年のように襲来し、洪水によって何百万人もの人々や水・衛生設備が大きなダメージを受けています。また、同行したウォーターエイド・マダガスカルのスタッフによれば、昔に比べて、雨期の開始時期や降雨パターンが変化しており、それによって多くの人々が営む農業の作付けや収穫、そして収入と暮らしに影響が及んでいるとのことです。

今回の視察では、高い志をもって、水と衛生の確保に懸命に取り組む現地の人々と出会いました。事業終了後6か月を経過しましたが、厳しい環境の中でも目標に向かって協働する、まさしくSDGsゴールの取組みへのエールを送られたように感じました。ウォーターエイドの目指す「しくみ」は、そこで働き、参加する人たちの強い意志があってこそ成り立つものです。ウォーターエイドは、これからも現地の人たちを支え、協働しながら、人々の健康と発展のため、安全な水の確保と衛生の改善に取り組んでいきます。

ウォーターエイドジャパン プログラム・コーディネーター 木藤耕一