【活動レポート・ブログ】カンボジア:水上集落における水・衛生改善プロジェクト

カンダール州サーン郡プラサットの水上集落
Image: WaterAid/ Marina Sugiyama

2027年までに、国連の分類による後発開発途上国(Least Developing Countries: LDCs)を脱すると見込まれ、経済成長が進むカンボジア。2012年には人口の45%が野外排せつをしていましたが、2022年にはその割合は12%まで激減するなど、水・衛生分野でも大きな改善が見られています。政府は2025年までに、すべての人が水とトイレを利用できることを目標に掲げ、取り組みを進めています。一方で、都市部を除く地域では、今も水・衛生の課題が残ります。このブログ・活動レポートでは、2024年7月にカンボジアを訪問をしたウォーターエイドジャパンの職員が見た現地における取り組みの1つ、水上集落における水・衛生改善プロジェクトをご紹介します。

都市部とは異なる景色が広がる水上集落

カンダール州サーン郡プラサットの水上集落

首都のプノンペンから車で2時間ほど離れたカンダール州サーン郡プラサット。ウォーターエイドはこの地域の3つの水上集落で水・衛生プロジェクトを実施しています。今回は、そのなかのひとつの水上集落を訪問。この水上集落では、環境にやさしい汚水処理システムを活用し、水上の公衆フローティングトイレ棟4つに計16基のトイレを試験導入し、水・衛生の改善を図っています。訪問した当日は、本プロジェクトを担当するウォーターエイド・カンボジアのスタッフと共に、実際に使われているフローティングトイレを見学し、住民の方や町長からもお話を聞くことができました。

カンダール州サーン郡プラサット町役場

カンボジアにおいて、水上集落で生活する人々の多くは、漁業や農業、日雇い労働に従事しており、貧困下で生活しています。今回訪れた水上集落でも、プロジェクト以前には、自宅にトイレがない、あるいは「トイレ」が仮に自宅にあったとしても、床に空けた穴から直接川に排せつ物を流すタイプのトイレでした。そのため、排泄物によって、悪臭が漂ったり、川の水質が汚染されていたとのことでした。また、人々は、排せつ物で汚染された水を生活用水として使ったり、身体を洗ったり、家庭によっては飲み水として使ったりしていたそうです。

そうした状況を改善するために、ウォーターエイドは、資金面も含めて郡政府と協働し、以下の取り組みを行っています。

  • 汚水処理システム付の公衆フローティングトイレの導入
  • 汚水処理システムの運用管理
  • 衛生行動の変容促進
  • トイレの管理委員会の設立

環境にやさしく、使いたくなるトイレ

技術的な解決策として、ウォーターエイドは、現地の青年起業家と協力して、技術開発した環境にやさしい汚水処理システムを搭載した公衆トイレを試験導入しました。

カンダール州サーン郡プラサットの水上集落に設置されたフローティングトイレ棟

処理槽内の汚水処理フィルターの材料にはココナッツから出る廃棄物が使われ、このフィルターが油脂や固形物を吸着します。2年毎に処理槽を空にする必要があるものの、低コストのフィルターで汚染物質を除去することができるのが特徴です。また、処理槽の横には水生植物が植えられており、川に放水される前にこれらの植物が有機物(窒素やリン)を吸収し、最終浄化を助けます。屋根には太陽光パネルが備え付けられており、夜間には周囲を照らし、安全に使用することができます。

カンダール州サーン郡プラサットの水上集落のトイレ

汚水は安全に処理された後、川に放出されるため、これまでのように、川の水が汚染されたり、悪臭が漂うことはなくなりました。実際に、トイレの周りではほとんどにおいはありませんでした。一緒に訪問した別のスタッフも実際にフローティングトイレを利用し、「10点満点中10点」と太鼓判を押していました。

大きく改善した衛生環境、その裏にある人々の努力

地域の方々や現地スタッフの話によれば、雨期になるとこの地域は一帯が浸水してしまうため、町に入るかなり手前で車を止めて、ボートに乗り換えないと訪れることができないそうです。そのような時期は、水上集落だけでなく、乾期には陸地となっている川岸に暮らす人々の家も床下浸水するため、雨期にはこの公衆トイレを使用するとのことでした。

カンダール州サーン郡プラサットの町役場

そのため、ウォーターエイドと共に衛生行動促進のために、家庭訪問をする町役場の職員は水上集落の家庭だけでなく、川岸の家庭も定期的に訪問し、正しい衛生やトイレの使い方について伝える活動を行っています。

また、トイレの管理委員会は、住民のなかから名乗り出た有志によって構成されています。基本的には、トイレの近くに住む住民が管理委員を務めており、毎日トイレを確認し、掃除することが主な役目となっています。今回、管理委員の1人である住民の方からお話をうかがったところ、以前に比べて本当にきれいになったと言っていました。また、委員としての仕事は無給にも関わらず、地域のために貢献したいという思いが会話のなかから伝わってきました。

カンダール州サーン郡プラサットの水上集落にて

以前は自宅で直接川に用を足していた人々も、わざわざボートを使ってまで(子供たちは親にボートに乗せてもらって)、公衆トイレまで来て、用を足すという習慣が広まったことは、こうした地域の人々の貢献によって成り立っていることを感じました。以前はぷかぷかといたるところに排せつ物が浮いていたそうですが、そうした様子はまったく見られませんでした。また、トイレだけでなく、水利用についても、今はほとんどの家庭で、川岸から給水パイプをひいて清潔な水を使えるようになったり、雨水貯留タンクを設置して雨水を活用したり、ボトルで飲料水を購入したりと水・衛生に関する人々の意識そのものも大きく変わったことが見受けられました。

課題となる持続可能性

一方で、まだ課題も残ると言います。前述の管理委員の方のお話では、設備の使い方について、充分に周知できていない部分があり、手洗いの水を出しっぱなしにしてしまったり、汚れた履物で設備を使ってそのままにしてしまったりする人もいるそうでした。また、現時点では、住民から公衆トイレの使用料金を徴収することは現実的ではないとのことでした。より住民の理解と協力を得ることや委員会の持続可能性を担保することも課題となっています。

カンダール州サーン郡プラサットの水上集落にて

また、設備に使われているフィルター等は安価なものの、タンクや設備そのものが高価なことも課題として残っています。また、トイレそのものが水上に浮いている性質上、雨期などに水位が変わった際にトイレの場所を変えることができる一方で、移動時に設備が破損する恐れもあります。

こうした課題を抱えつつも、ウォーターエイド・カンボジアのスタッフは町役場の職員や町長と密に連携し、課題を確認し、今回の試験導入をどう今後発展させていくかを協議している姿が印象的でした。

このプロジェクトを担当するウォーターエイド・カンボジアのプログラム・コーディネーターのエクドム・ソクはこれからについて、次のように語ります。

トイレの清潔さと機能性を保ちつつ、使い続けられるよう、施設の適切な使い方について住民に伝える努力をし続ける必要があります。また、プロジェクトは、トイレの長期的な持続可能性を確保するために、別の資金モデルや外部資金源を模索しなくてはなりません。設備のメンテナンスにかかるコストにどう対処し、水上集落という環境変化のある場所に設置されたトイレをどう維持するか、その方法を見つけることは、プロジェクトが将来的に成功を納めるうえで極めて重要になります。この試験的なプロジェクトの成功を踏まえれば、他の水上集落にもこの活動を拡大できる可能性があると期待しています。