【活動レポート・ブログ】国連水会議報告:国連水会議は水・衛生危機の潮目を変えられるのか?

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Image: WaterAid

国連水会議では、地方自治体や各国政府、NGO、民間セクターなどから700件以上のコミットメントが掲げられました。しかし、これらは本当に意味があり、そしてこれらは実現されるのでしょうか。ウォーターエイド・イギリスのグローバルキャンペーン部長のクレア・シーワードが、国連水会議の主要ポイントを紹介し、これらのコミットメントが、すべての場所ですべての人に水と衛生設備、衛生習慣を届けるための行動を加速させるかどうかを考察します。 

3月22日~24日、ニューヨークで、約半世紀ぶりに開催された国連水会議(UN Water Conference)に、世界中から数千人の人々が集まりました。1977年の歴史的な国連水会議は、水に関する最初の国連行動計画の制定に貢献しました。持続可能な開発目標(SDGs)の水・衛生に関するゴール6の遅れが懸念されるなか開催された2023年の国連水会議は、持続可能で安全な水・衛生を世界中のすべての人・すべての場所に届けるため、状況を動かし進捗を加速させる重要な機会となりました。 

下記のとおり会議での主なポイントをご紹介します。 

1. 水の重要性は証明されたが、説明責任が欠如したまま 

国連水会議は、水の重要性を認識するものでしたが、開発パートナー、民間セクター、政府、NGOなどによる700を超えるコミットメントは、そのどれもが拘束力がありません。拘束力のある合意をより重視し、水分野とそのステークホルダーが協力して取り組む明確なビジョンがないかぎり、真の進展は望めません。 

この会議で発表された新しい国連水特使は、説明責任を果たす上で重要な役割を果たすことになるでしょう。しかし、世界的に気候や保健、経済への危機が高まる中、あれこれ考える時間はもうありません。気候危機と保健危機の最前線にいる人々は、水・衛生に関する行動を今すぐ必要としています。変革的な変化を見るためには、これらのコミットメントに対する真の説明責任が必要です。

2. 水・衛生は分野横断的な問題だが、いまだ資金の議論から抜け落ちている 

農業、食料、エネルギー、産業など、さまざまな分野で水需要が競合し、それが水の安全保障にどのような影響を与えるかについて議論されていることは、喜ばしいことです。持続可能な開発目標の達成に水は不可欠であり、そのように認識することは極めて重要です。また、水資源管理に関するセッションで、衛生設備と衛生行動についてより多くの議論がなされたことも、非常に好ましいことでした。衛生設備と衛生行動がなければ、人々にとっての水の安全保障はあり得ません。 

一方、このような注目の高まりがサステナブルファイナンスについての議論へとつながっていません。水インフラへの投資に注目が集まりすぎていて、水・衛生サービスに必要な投資については不十分です。水・衛生サービスは、水インフラも含まれますが、より広範なシステム強化や行動変容にまで踏み込んだものだからです。 

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気候変動に対応した持続可能で適応力のある水管理を確保するために、先祖代々の知恵に敬意を払うことをテーマに国連水会議のイベントで制作された作品
Image: WaterAid

3. 水・衛生、気候の関連性の認識が深まると、次に何が起こるのか? 

水と気候は、地球規模で非常に重要な話題であるため、これが大きな話題となったことは心強いものでした。各国政府が国連水会議をCOP28への足がかりとして捉え、水をその議題としてしっかり取り上げることを求めていることは明らかでした。そのために、水が気候、環境、そして生物多様性のすべてにつながり、重要であることを認識する必要があります。 

ウォーターエイドは、気候変動に関連して、人々の水・衛生のニーズが、水と気候に関するアジェンダの一環として取り上げられるよう呼びかけています。ブラジルのような国々が、水・衛生なしに、人々は気候変動に対応することができないと指摘したのは、本当に心強いことでした。しかし、まだまだやるべきことはあります。気候変動に関する議論の中で、衛生がより大きく取り上げられる必要があり、ウォーターエイドのCOP28の取り組みとして検討する予定です。 

4. 水・衛生と保健の話は、意外と盛り上がりに欠けるものだった 

保健が公式テーマであったこと、さらには43カ国に住む10億人がコレラの危険にさらされていることを踏まえると、水・衛生が保健課題、特に予防と対応に向けて果たす役割が、大きく議論で取り上げられなかったのは驚きでした。ただ、保健医療施設における水・衛生に関する国連決議の提案があったことは、その詳細を明確にする必要はあるものの、歓迎すべきニュースです。このことは、今年5月に開催される世界保健総会の保健医療施設における水・衛生に関する決議に始まるモメンタムとなるでしょう。また、英国政府が、南アジアとサハラ以南アフリカの最大5カ国における水・衛生と保健システムの強化に、新たに1850万ポンドを支援すると発表したことも、良い成果でした。 

確立された政策コミットメントを資金と具体的な実施に結びつけるためには、水・衛生問題に対するより強い、世界的なリーダーシップが必要です。 

国連水会議に展示された広報物
国連水会議に展示された広報物
Image: WaterAid

5. 最前線に立つ人々に焦点を 

会議の成果報告のなかで、人々の水・衛生への権利が言及されたのは良いことでした。一方、その言葉が具体的な人権に基づくアプローチの実施に移行し、権利が実現されるようになるには、まだまだやるべきが多くあります。その一因は、解決策を持つ人々、つまり最前線にいる人々が、国連の会議に参加することが難しいことにあります。人権に関するイベント 「Hearing the Unheard 」など、そうした人々が会議に参加することを後押しする画期的な工夫もあり、いくつかのイベントでは力強く毅然とした声が聞かれましたが、現実では、この会議がどこで開催されるかということが、大きな意味を持ちます。誰もがアメリカへのビザを取得できるわけではありませんし、国連の認定制度は草の根団体にとって参加登録が困難なため、大きな組織と同じ場所へ行くことができる人は、ほとんどいません。 

6. 民間セクターがコレクティブアクションのモメンタムを確保した一方、公的セクターとは連携なし 

会議では、「パートナーシップ」と「コラボレーション(協力)」が流行語となりました。私たちは、水・衛生の政策とプログラムは、政府がリーダーシップをとって全面的に支持したとき、そして開発パートナーと民間セクターからも支援を受けることができたときに、急速に進展すると考えています。 

しかし現実には、民間セクターと公的セクターは今なお連携がとれていない状態で、今回の会議もその例に漏れませんでした。政府代表が、国連で民間セクターとの協力の価値と必要性を語る一方で、民間セクターの人々(特に企業や投資家)は国連の外の会場で、公的セクターにおけるリーダーシップの欠如について議論していました。両者が同じ場所で議論することはほとんどありませんでしたが、もし協力することに合意し、それを実現していこうというのであれば、同じ場で議論することが不可欠です。 

しかし、民間セクターのコレクティブアクションに関して、大きなエネルギーが感じられる例もありました。50社以上の企業が、国連グローバル・コンパクトの「Business Leaders’ Open Call to Accelerate Action on Water(水に関するアクションの加速を呼びかけるビジネスリーダーの公開呼びかけ)」に署名し、「Water Equity Global Access Fund IV」への投資に向けて、新たなマイルストーンが達成されました。このようなモメンタムは、政府や開発パートナーと協力するための重要な機会となるでしょう。 

これからどうするのか? 

国連水会議の議論を終えて、次の大きな会議に移るのは簡単なことです。そして、今年も多くの会議が予定されており、国連水会議で出されたアクションアジェンダが提起されることは間違いありません。気候危機と保健危機の最前線にいる人々は、水・衛生に関する行動を今すぐ必要としており、次の会議まで待っていられません。 

私たちは国連水会議から生まれたエネルギーに基づき、その分野での大きなビジョンとコミットメントが何であるか、再度焦点を合わせる必要があります。私は、700の断片的で拘束力のないコミットメントよりも、10の拘束力のあるコミットメントを見たかったのです。本来、このレベルでの集中とコミットメント、そして必要なすべての説明責任が、変革の推進に必要です。 

SDGsの期間の半分が過ぎましたが、進捗はまだ受け入れがたいほど遅れています。次の10年間は、深刻化が予想されるグローバルな課題に対応することが急務です。私たちのビジョンは、こうした脅威に対してレジリエンスを確立するために必要な、「すべての人がすべての場所で、清潔で持続可能な水と衛生設備を利用し、衛生習慣を実践できる世界」です。これを実現するために、私たちの政策提言レポートをお読みください。 

このレポートは、ウォーターエイド・イギリスのグローバルキャンペーン部長のクレア・シーワードによるレポートを、ウォーターエイドジャパンで編集したものです。オリジナルのレポートはこちら。