【活動レポート・ブログ】モザンビーク:清潔な水がない、手洗いができない保健医療施設

Maria Alberto checks the weight of a baby during a weekly check for children at the health centre in Napacala. Niassa Province, Mozambique, Jul 25, 2022.
Image: WaterAid/ Etinosa Yvonne

2000年以降、20億人以上が清潔な水を、27億人がトイレを利用できるようになりました。このような前進がある一方、これまで見過ごされてきた課題の1つが診療所や病院などの保健医療施設に給水設備やトイレがないことです。

保健医療施設は、人々の命と健康を守るためにも、清潔な場所でなければならない一方、後発開発途上国のおよそ半数の保健医療施設では、敷地内で清潔な水を利用することができません。新型コロナウイルス感染症が拡大していた時期には、こうした保健医療施設で働く医療従事者たちから、「この病院が感染源になるのではないか」「自分だけではなく家族を感染の危機にさらすのではないか」という不安の声が多くあがっていました。

ウォーターエイドはこの冬、人々の健康と命を守る病院や診療所に清潔な水を届けるために、冬募金へのご協力をお願いしています。この記事では、清潔な水を得ることが困難なモザンビークのナパカラ診療所の現状について紹介します。
 

命の危険に直結する医療現場の水・衛生環境

下記は、保健医療施設の水・衛生の状況、そして水・衛生の不備によって起きる影響を示す数字です。

  • 38億5,000 万人が、石けんと水、または消毒用アルコールが備わった手洗い設備がない保健医療施設を利用したり、そこで働いたりしています(※1)。 7億6500万人が、トイレがまったくない保健医療施設を利用しています(※2)。

  • 毎年50万人が、本来手洗い等で防げるはずの下痢や急性呼吸器感染症で亡くなっています(※3)。手洗いは、下痢性疾患を42〜47%減らし(※4) 、急性呼吸器感染症による年間37万人の死亡を防ぐことができます(※5)。また、適切なタイミングでの手洗いは、医療従事者に影響を与えるものを含め、医療サービス提供中に起きる、本来避けることが可能な感染の最大 50% を防ぐことができます(※6)。

  • 後発開発途上国のおよそ半数の保健医療施設では、敷地内で清潔な水を利用することができません(※7)。

  • 不衛生な環境での出産に伴う感染症によって、年間100万人を超えるお母さんと赤ちゃんが命を落としており、このことは出産時に赤ちゃんが亡くなる原因の26%、女性が亡くなる原因の11% を占めています。汚れた水しか手に入らないなかでの出産は、母子ともに大きなリスクを伴います。

  • 医療従事者の70%は女性と言われており、トイレがない、手洗いができない職場では、月経期間中なども安心して働くことができません。

新型コロナウイルスの感染拡大によって、世界中で手洗いの重要性が再認識されました。同時に、感染のリスクに直面しながら、感染拡大を食い止める最前線で働く医療従事者の方々に世界中が感謝・賞賛を贈りました。しかし、ウォーターエイドが活動する地域では、現在も清潔な水が使えず、十分手洗いをすることができず、保健医療施設の利用者、そしてそこで働く医療従事者たちが命の危機にさらされているのです。

 

モザンビーク ナパカラ診療所の水・衛生

A mother and her child leave after being attended to at the health centre in Napacala (pre-intervention). Niassa Province, Mozambique, Jul 25, 2022.
Image: WaterAid/ Etinosa Yvonne

冬募金のページでもご紹介しているモザンビーク北部ニアサ州クアンバ郡のナパカラ診療所。ナパカラ診療所は、にぎやかな市場の中にあり、16のコミュニティの中心に位置しています。この診療所では、マラリア経口薬の投与から月70件近くあるという出産、さらに赤ちゃんのケアまで、2部屋しかない小さな施設で、様々な医療を提供し、地域の人々の暮らしを支えています。

しかし、この診療所に清潔な水はありません。唯一の選択肢は、壊れた井戸からくんだ汚れた水を使うこと。水くみは貴重な治療時間を奪い、ただでさえ多忙なスタッフにとって大きな負担となります。医療に関する研修も受けて、知識ももっているにもかかわらず、患者を診察・治療した後に手洗いをすることができず、次に診察・治療する患者を感染させてしまう可能性もあります。

ここで働く看護師のマリアさん、清掃員兼補助員のマニュエルたちは、地域の人々の命と健康を守るために、自分たちの仕事に誇りをもって、休むことなく働いています。しかし、清潔な水を使うことができなければ、安全な治療や出産を行うことができません。マリアさん、マニュエルさんのような医療従事者がどんなに研修を積んでも、何時間働いていても、どんなに患者さんのことを思っていても、この診療所で行われる診察、治療や出産が人々の命を危険にさらす可能性があるのです。
 

看護師のマリアさん

Maria Alberto poses for a portrait at the health centre in Napacala (pre-intervention). Niassa Province, Mozambique, Jul 25, 2022.
Image: WaterAid/ Etinosa Yvonne

マリアさんはナパカラ診療所に勤めて8か月になります。ここに来る前は、NGOなどで予防接種プロジェクトに携わっていましたが、研修を終えてからはここが初めての赴任地です。マリアさんは、ある日の朝7時半、4時間前に深夜の出産に立ち会った後、すでに業務に戻っていました。週7日24時間、いつでも治療にあたれるよう待機しています。マリアさんは、患者さん想いの看護師さんとしてコミュニティの人々に慕われていますが、そんな彼女にとっても、患者さんのために飲み水をくむには、100メートル以上歩かなければならず、大変な仕事だと言います。

「私の仕事は、予防の推進です。予防接種プログラムで子供たちと接することが多いですね。私が子供の頃、看護師の白い制服に憧れ、看護師になるのが夢でした。ここ(ナパカラ)で働き始めてから、妊婦さんのケアの仕方を学びました。研修を受けたわけではなく、ここで学びました。

朝、診療所に到着すると、まず患者さんの予約券を手配し、次に子供たちの体重を測り、その後、子供たちを対象とする予防接種のプログラムを続けます。

水くみは大変ですが、他に方法はありません。同僚が不在のときは、私が診療所で使う水をくんできます。一方、この診療所を利用するお母さんたちの役に立てることは嬉しいことです。

(井戸からくんでくる)水は私たちが診察時・出産時に手を洗うときと、患者さんの洗濯物を洗うときだけ使います。飲み水は、かなり長い距離を歩いたところにある給水ポンプでくんでこなければなりません。でも飲み水がなければ、患者さんを受け入れることが困難です。

井戸が干上がると、手洗いや洗濯ができなくなります。そのときは、やはり遠くまで歩いて、給水ポンプで水をくんでこなければなりません。

ナパカラでは水が必要なのです。診療所だけでなく、コミュニティ全体に給水設備があったらいいと思います。診療所の周りには全部で16のコミュニティがあり、水を切実に必要としているのです。私にとって水は命であり、それなくして命はないのです。

水があれば、長い距離を歩かなくても清潔な水を患者さんに提供できるようになり、診療所の発展にもつながります。診療所が拡大し、医療従事者の数が増えて、1人の看護師がさまざまな部門を担当しなくて済むようになればいいな、と思っています」
 

マニュエルさん

Manuel Mirose, a cleaner at the health centre poses for a portrait in Napacala. Niassa Province, Mozambique, Jul 25, 2022.
Image: WaterAid/ Etinosa Yvonne

マニュエルさんは6年前にナパカラ診療所に異動してきました。5歳と1歳の幼い子供たちを含む家族は約900キロ離れた場所に住んでいます。

毎日、朝5時に診療所に来て、2時間かけて掃除をし、午後3時半まで、井戸の水くみからワクチンの準備、傷の手当てまで、何でもこなしていきます。いつか清掃員の仕事を離れて自分の畑を持ちたいと考えています。「自分の畑を作りたいんです。農業のことはよく知っていますから」

「私は清掃員です。診療所の周りを掃除し、器具を全部洗っています。水も管理しています。1日3回、4回と水くみに行くこともあります。井戸の水は(不衛生なので)あまり使えません。井戸にゴミを投げ込む人もいるくらいです。

私は午前中の仕事を終えると、ここで待機しています。頼まれれば、何でもしますよ。看護師が仕事を終えた後、器具を洗って消毒をします。もっと同僚(清掃員)が増えるといいのですが。

ナパカラでは、水の問題が大きいです。多くのコミュニティがあるのに、水源は3つしかありません。私たちの診療所では、乾期になると水が不足し、体を洗うのも大変です。もし、本当に水がここに届くのであれば、この(ウォーターエイドが実施する予定の)プロジェクトはとてもありがたいことです。私たちは病気を防ぐことができます。すべてがきれいになります。安全な水を飲むことができるのです」

生後2か月の赤ちゃんとマチルデさん
ナパカラ診療所で出産したマチルデさん
Image: WaterAid/ Etinosa Yvonne

このような状況について、ナパカラ診療所の利用者であり、今年5月に男の子を出産したばかりのマチルデ・ロマオさんは、次のように話します。

「診療所について何か変えられるとしたら、トイレを変えたいですね。トイレは、多くの人が利用していて、汚れています。良いものではありません。トイレを使っても手を洗わない人もいます。ここでは、水にも問題があります。たくさんの人がこの診療所を利用しているのに、小さな井戸が1つしかないのです。水道とトイレがあったらとても良いと思います」

ウォーターエイドは、40年間にわたって水・衛生に特化して活動してきた経験を活かし、この地域の5か所の保健医療施設で、清潔な水が利用できる給水システムを設置する予定です。

冬募金特設ページ

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1. Half of health care facilities globally lack basic hygiene services – WHO, UNICEF
2.& 7. GLOBAL PROGRESS REPORT ON WASH IN HEALTH CARE FACILITIES
3., 5. & 6 State of the World’s Hand Hygiene
4. Effect of washing hands with soap on diarrhoea risk in the community: a systematic review
5. Burden of disease from inadequate water, sanitation and hygiene for selected adverse health outcomes: An updated analysis with a focus on low- and middle-income countries