【活動レポート・ブログ】切り離せない保健と水・衛生~PMAC/UHCフォーラムに合わせて

Yehasab Ayenew, 24, a cleaner, washing her hands using the 20 litres of water set aside for hand washing at Yiraber Health Centre, Jabi Tehnan, West Gojjam, Ethiopia, December 2018.
Image: WaterAid/ Genaye Eshetu

「ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)に向けた取り組みの加速」をテーマに、保健政策などについて世界の援助関係者らが話し合う「マヒドン王子記念賞会議(PMAC)2020 / UHCフォーラム2020」が1月28日から2月2日まで、タイ・バンコクで開かれます。水・衛生の取り組みと保健分野の取り組みとの連携の強化に向けて、ウォーターエイドも会合に参加し、サイドイベントを開催します。会議に合わせ、保健と水・衛生がなぜ切り離せないのか、現場の実情を紹介します。

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適切なトイレも、手を洗うための石鹸もなく、のどが渇いても職場を離れて近くの水源まで歩いていくしかないというストレスだらけの環境で、日々、12時間働くことを想像できるでしょうか。

多くの人は、このような環境で働くことを拒否するでしょう。しかし、開発途上国の多くの医療従事者にとっては、これが現実です。

2019年4月に発表された、ユニセフと世界保健機関(WHO)による水と衛生に関する共同モニタリングプログラム(JMP)の報告書「WASH in Health Care Facilities」によると、世界の保健医療施設の4分の1はその施設内に清潔な水を使うための設備がなく、5分の1はトイレがなく、6分の1の施設では手洗いが行われていません。

開発途上国の保健医療施設に限っていえば状況はさらに悪く、後発開発途上国の保健医療施設では、その45%が施設内に清潔な水を利用するための設備がない状況です。また、サハラ以南のアフリカ諸国では、適切なトイレがある保健医療施設はわずか23%に過ぎません。

患者にも医療従事者にも危険とストレス

こうした環境は、患者だけではなく、医療従事者にも大きなストレスをもたらします。 エチオピアの農村部にあるイラベル医療センター。このセンターのスタッフは毎日、どの部屋にモップをかけるかを決めなければなりません。すべての部屋の清掃をするには水が足りないからです。看護師たちは患者用の水を再利用しているような状況で、自分の手をしっかり洗うことなどとてもできません。

エチオピア・アムハラ州のイラベル医療センターの分娩室で、水の入ったバケツのそばに立つ看護師のヤイエ・ワレさん。この水は医療器具の洗浄に使われる。
エチオピア・アムハラ州のイラベル医療センターの分娩室で、水の入ったバケツのそばに立つ看護師のヤイエ・ワレさん。この水は医療器具の洗浄に使われる。
Image: WaterAid/ Genaye Eshetu

「言いたくはないのですが、ここで働くのは苦しい経験です」とセンターの看護師、ヤイエ・ワレさんは言います。「患者さんを治すどころか、別の病気に感染させるかも知れないことが悲しい。わたしたちは病気にならずに働いてはいますが、病気の罹患率の高い環境にいます」

水・衛生の設備や環境が整っていない保健医療施設は、患者にとっても医療従事者にとっても危険です。2014年から2016年にかけて西アフリカでエボラ出血熱が大流行したときには、非衛生的な環境のために800人を超える医療従事者が感染し、500人以上が命を落としました。2018年からエボラの発生が続くコンゴ民主共和国では、患者のうち相当数が保健医療施設内で感染しています。

全般的に見て開発途上国では、患者の15%が入院中に少なくとも1つの感染症に罹患しています。院内感染によって抗生物質耐性菌が広まる事態も続いています。こうした状況は、スタッフの安全や仕事への意欲、雇用にも悪影響を与えます。

「わたしは2人の友人と一緒に採用されましたが、友人たちは働き続けることができませんでした」とワレさんは言います。「『医療センターに水がないのに、どうやって子供の健康に取り組めるんだ』と2人は言っていました。そしてすぐに辞めてしまったのです」

下痢をする子供を持つ親に経口補水療法の方法を説明するときに使うコップと、ヤイエ・ワレさん
下痢をする子供を持つ親に経口補水療法の方法を説明するときに使うコップと、ヤイエ・ワレさん
Image: WaterAid/ Genaye Eshetu

現場での実践と国際的な働きかけ

しかし、この問題は解決が可能です。各国でのウォーターエイドの活動によっても事態は改善してきています。

一方で、各国の政府や援助関係者が行動しなければならないこともあります。そのため、たとえば、2019年のWHOの年次総会に向けて、ウォーターエイドは各国保健相に対し、医療施設での水・衛生の改善を最優先課題とするよう求め、「保健医療施設における水・衛生に関する決議」が採択されました。

「すべての人に健康を」を掲げるUHCと、水・衛生の問題はつながっています。PMAC2020/UHCフォーラム2020の期間中の1月29日、ウォーターエイドはWHO、カンボジア国立公衆衛生研究所と共同でサイドイベント「UHCに向けた保健サービスの転換:保健医療施設での基本的な水・衛生に着目して(Transforming health service quality for UHC: a focus on basic water, sanitation and hygiene (WASH) in health care facilities)」を開催し、議論を深めます。

 

このレポートは、ウォーターエイド・アメリカの保健・水・衛生担当であるダニエル・ジリンスキーの投稿を、ウォーターエイドジャパンで編集したものです。オリジナルはこちら(英文)