【プレスリリース】COP29:気候変動問題における格差是正の機会を逃す

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29 November 2024
MV
Image: WaterAid/ James Kiyimba


アゼルバイジャンの首都バクーで開催された国連気候変動枠組条約第29回締約国会議(COP29)が、2024年11月25日に閉幕。約2週間にわたって世界の指導者たちが集まり、喫緊の課題である気候変動の問題について議論しました。水・衛生の国際NGOウォーターエイドは、「気候行動のための水バクー宣言」が採択されたことを評価する一方、気候変動による格差是正のための動きは依然として不十分であり、COP30に向けて、今一度COPの信頼を取り戻し、目標達成のための道筋を立て直す必要があると提言しています。

COP29は「ファイナンスCOP」と位置づけられ、資金拠出に関する議論を主な目的としていました。しかし、「気候資金の新規合同数値目標(NCQG=バクー資金目標)」で合意した先進国から途上国への気候資金の額は3000億ドルと、当初専門家が要めていた年間1兆ドルから大きく下回る金額であり、多くの人々の命を危機にさらし続ける結果となりました。

ハリケーンや洪水、山火事や干ばつの悪化に至るまで、地球上のあちこちで自然災害による被害が多発しています。その多くが気候変動によるものですが、被害を受けている地域の多くは気候変動の要因にほとんど寄与していません。

水は命の源であり、そして適切なトイレや衛生慣習は人々の健康を維持するために欠かせません。 
清潔な水やトイレを利用し、衛生慣習を実践できなければ、異常気象によってトイレや家屋が破壊され、水源が汚染されてしまい、人々は感染症の拡大から免れることができず、貧困の連鎖から抜け出すことはますます難しくなります。

COP29では、「気候行動のための水に関するバクー対話」が立ち上げられ、COPのアジェンダとして水が取り上げられたことは、大きな前進です。気候危機に対応するためには水が不可欠であることが認識され、今後のCOPにおいても引き続き水について議論されることになった一方で、資金がともなっていないという大きな問題があります。

これを受けてウォーターエイドUKのCEOであるティム・ウェインライトは次のように述べています。

「COP29の終わりを向かえ、世界はこれまでよりもさらに先行きが不透明になったように感じています。

COP議長国が『気候行動のための水に関するバクー対話』を提案し、水の課題がCOPの議題として浮上したことは、歴史的な瞬間と言えるでしょう。しかし、気候変動による格差是正のための動きは依然として不十分です。3000億ドルという数字は、当初の試算である1兆ドルには遠く及びません。 

洪水や干ばつの被害に苦しむ人々のために、グローバルリーダー達がそれぞれの思惑をぬきに、目標達成のために一致団結できなかったことを非常に残念に思います。

COP29の結果を受け、来年のCOP30に向けて、今一度COPの信頼を取り戻し、目標達成のための道筋を立て直す必要があります。グローバルリーダーたちは一致団結し、前線で気候変動の影響を受けている人々のために、適応策に十分な資金を確保し、これらの計画の中心に清潔な水・衛生を据えて、約束を実行に移す必要があります。気候変動により脆弱な立場におかれている人々は、これ以上議論を待つことはできないからです」 

 COP29における主な成果

  • 資金の新規合同数値目標(NCQG)

    気候資金の新規合同数値目標の合意形成は難航し、交渉は現地時間の日曜日の早朝にまで及びました。
    先進国は、2035年から年間3,000億ドルの気候資金を提供することに合意しました。これは、専門家の試算である年間1.3兆ドルを大きく下回っています。現在のインフレ率を考慮すると、3,000億ドルという数字は、2009年に設定された1,000億ドルという目標から実質的に横ばいです。 

    今回の合意では、緩和と適応にむけた個別具体的な目標は盛り込まれず、代わりに前回と同様、両者の「バランスをとる」という文言が踏襲されました。しかしながら、この「バランスをとる」という目標は前回達成に失敗し、現在も適応に向けた資金は優先化されていません。

    3,000億ドルの資金拠出は、形式上、締約国による合意ですが、その中には「公的資金と民間資金の両方から拠出される」という文言が盛り込まれています。これにより締約国(先進国)は実質的に資金拠出への負荷を軽減することが可能です。 たとえ将来この目標が達成できなかったとしても、先進国はこの文言を根拠として、目標未達の責任を逃れるかもしれません 一方、資金拠出の一部を担うとされている民間企業はパリ協定に署名していないため、目標が未達だったとしても直接的な説明責任はありません。 
    つまり、3000億ドル達成への責任の所在がはっきりとしない状態となっているのです。 
  • 適応に関する世界全体の目標(Global Goal on Adaptation: GGA)

    適応に関する世界全体の目標(GGA)は、2015年のCOP21で採択されましたが、2023年開催のCOP28でようやく各国が目標の枠組みを決定しました。重要なのは、気候変動がもたらす深刻な影響への適応に関する明確な目標を掲げ、適応を政治的優先事項とすることです。

    COP29では、このGGAに関して大きく進展しました。締約国は、ベレンで開催されるCOP30での最終合意にむけて、適応の進捗状況策定のためのプロセスを明確にすることに合意しました。 

    また、GGAに対する資金拠出の重要性に対する共通認識を確認し、達成率確認の指標のなかに、目標金額に対する資金提供の割合を含めることを決定しました。
    一方で、GGAに対する進捗報告は任意であり、締約国は報告する指標を選ぶことができるため、進捗状況の把握が難しくなる可能性があります。達成率の低い指標の報告を意図的に避けることで、実際とは異なる統計結果が出る恐れがあります。 
  • 水と気候変動の課題への適応 

    気候危機は水危機です。世界各地でコミュニティは、洪水等による「多すぎる水」と深刻化する干ばつによる「少なすぎる水」の影響を受けています。ウォーターエイドは、COP29 において、水に関する世界の関心が高まり続けていることを実感しました。

    解決への前向きな一歩として、気候行動のための水に関するCOP29宣言が採択され、署名国は、水に関する対話とパートナーシップの促進、科学的エビデンスの生成、水関連の気候政策行動の強化という3つの明確な行動を通じて、気候変動対策において水への取り組みを優先することを約束しました。

    また、「気候行動のための水に関するバクー対話」も立ち上げられました。この対話は、今後COPにおいて、水の課題について重点的に議論を行っていくことを示すものでもあります。
    ウォーターエイドは、気候危機対応における水・衛生の重要な役割に重点を置き、資金調達や目標達成への道筋がこのバクー対話によって明確になることを期待しています。
  • グローバルストックテイクと緩和 

    緩和策は、各国がどのように排出量削減に取り組むかに関する包括的な合意として極めて重要でありながらも、残念なことに交渉は極めて難航し、締約国は以前に合意した目標を後退させた結果となりました。 

    最終文書はほとんど議論されることなく急ぎ足で作成され、国が決定する貢献(National Determined Contribution : NDC) に関する実質的な約束は盛り込まれず、適応と排出削減に関する世界全体の進捗状況を測定するグローバルストックテイクへの言及もなく、全体的な緩和目標についての表現も弱められています。 

    極めて重要な点は、グローバルストックテイクが緩和策の成功を評価する重要な機会にもかかわらず、その機会を失してしまったことです。 

    このことは、前回のCOP28で合意された緩和目標を大幅に後退させるものであり、COP29の成果を無駄にしてしまったと同然です。 
  • ロス&ダメージ基金 

    ロス&ダメージ基金は、気候変動によってもっとも影響を受けている一方、気候変動の要因にほとんど寄与していない開発途上国のコミュニティが、気候変動の影響に伴う損失に対応できるように、先進国に対して効果的な支援するよう呼びかけるものです。 

    気候変動の影響を受けやすい国々では、異常気象によって、家屋が倒壊し、保健医療インフラが破壊され、水やトイレが使えなくなり、コミュニティの人々の生活が立ち行かなくなっています。 

    COP29におけるロス&ダメージ基金に関する動きは、その進展を期待する気候変動に脆弱な国々、そして市民社会を落胆させるものでした。「気候資金の新規合同数値目標」文書のなかで、ロス&ダメージに関する言及はごくわずかであり、目標内のサブゴールとしての合意にも至らなかったうえ、気候資金の新規合同数値目標を通じて資金を提供するための重要なメカニズムであるにもかかわらず、その重要性も認識されませんでした。 

    さらに残念なことに、ロス&ダメージ基金は、6億7,400万ドルから7億5,900万ドルへと増額されただけで、依然として資金不足のままとなりました。 
  • ジェンダー、コミュニティーによる意見の反映

    気候変動をめぐる議論において、ジェンダーは極めて重要な要素です。世界では、女性や女の子たちが、家族を世話したり、長時間にわたる水くみの負担を強いられたりする現実があります。 

    しかし、COP29におけるジェンダーや人権、インクルージョンに関する話し合いは、全体として極めて憂慮すべきものとなりました。ジェンダー行動計画に関する具体的な交渉は難航し、気候危機の一環として、ジェンダーや人権の交差性に言及することに強い反発があがりました。 

    気候資金の新規合同数値目標と緩和作業計画の最終文書では、女性やその他のマイノリティの人々のニーズや経験、あるいは人権への言及が憂慮すべきほどに見落とされています。 

    日々、気候変動の影響を受けているコミュニティが、気候変動対策において重要な視点を持っていることは明らかであるにも関わらず、COP29 では、こうしたコミュニティを代表する意見やリーダーシップは、残念なことに閉ざされてしまっていました。

    多くのコミュニティリーダーや活動家がパビリオンに参加し、イベントを開催した一方で、交渉は土壇場で慌ただしく行われたため、議論や合意形成の多くは非公開で行われました。さらに、会場内の高い食費を含む参加費、官僚的なプロセス、限定的な入場パスが、コミュニティ参加の障壁となりました。