【プレスリリース】パキスタン:気候変動危機とジェンダーの課題~パキスタン洪水被災地で水・衛生の不足による衛生状況悪化で尿路感染症や生殖器合併症に苦しむ女性たち
11月14日、エジプトで開催中の第27回気候変動枠組条約締約国会議(COP27)にて、気候変動がもたらすジェンダーへの影響について話し合われます。そんななか、今年発生した豪雨によって、国の3分の1が水没する大きな洪水被害を受けたパキスタンの女性や女の子たちは、尿路感染症(UTI)や性と生殖に関する問題、その他の合併症など様々な健康被害に直面しています。
地域一帯が浸水したことで、不衛生な環境が広がり、劣悪なトイレ事情が強いられ、さらに保健医療施設の利用も困難になり、人々の健康は危機にさらされています。基礎疾患を持つある女性は、子宮から感染が広がったことで医師から子宮摘出を勧められました。別の女性はお腹のなかの赤ちゃんの命を案じています。
甚大な洪水被害から3か月後、ウォーターエイドがシンド州バディン県とダドゥ県のコミュニティを訪問した際、プライバシーがなく、清潔な生理用品を利用できないことで、トラウマや不安を感じている女性や月経が来ることを恐れている女性に会いました。月経用品が手に入らないため、「ドゥパッタ」(スカーフ)などの衣類を破いて代用せざるをえない人もいました。
ダドゥ県の避難所で、女性や女の子たちの対応にあたる現地の看護師タフミナさんは、接する女性たちのほとんどが腹部けいれん、過度の出血、異常なおりものを訴えている、とウォーターエイドに話します。タフミナさんは、尿路結石に関連する症状が著しく増加している様子を目の当たりにし、女性たちの70%がこの症状に苦しんでいると推定しています。タフミナさんは、不衛生な環境と汚染された水が、女性や女の子たちが直面している健康被害の一因になっていると述べています。タフミナさんは次のように語ります。
「月経中、長時間にわたって同じあて布を(生理用ナプキンとして)使ったり、排尿を我慢したり、汚れた水を飲用や洗浄用に使ったり、手洗いをしなかったりすることで不衛生な環境に陥ることが原因でこうした問題が起きています。トラウマや不安から、女性たちは放心状態にあります」
「また、洪水の初期の頃、流産の件数が急増しました。それだけでなく、死産の事例も耳にしました。その女性は陣痛の際に適切な医療を受けることができず、生まれる前に赤ちゃんは亡くなったと聞きました」
ルビナさんが、洪水によってダドゥ県ジョヒのバチャル・ラガリ村の自宅から避難することを余儀なくされたのは、妊娠6か月のときでした。それから3か月経って臨月を迎えた32歳の彼女は、現在、夫と4人の娘とともにジョヒ市内の堤防の仮設キャンプで暮らしており、赤ちゃんと子供たちの健康に不安を覚えています。
「テントでの生活は、子供にとって望ましい生活ではありませんし、このような危機的な状況で子供も私も生きていけるかどうかわかりません。
洪水の水が引くにはさらに3か月以上かかるようなので、これから4か月間もここで生活するかと思うと、ただ鳥肌が立つばかりです。私たち一家はすべてを失いましたが、子供は失いたくありません。」
もうすぐ出産を迎えるルビナさんは、安全に出産するための母子保健サービスを必要としています。そして現在、この洪水の被災地において、安全な妊娠・出産のための母子保健サービスを必要としている女性たちは、約65万人いると推定されています[1] 。さらに、洪水被災地域に暮らす推定820万人の女性は、生殖年齢に達していると考えられています[2]。
ウォーターエイドが出会ったもう1人の女性、7人の子どもの母親である45歳のラシーダさんは、洪水以前から子宮脱(※骨盤底が分娩等の要因により障害され子宮の一部または全部が腟から脱出する病気)のため感染症にかかりやすい状態でした。この3か月間、同じ布を生理用品として使っていますが、石けんも清潔な水もないためそれを衛生的に洗うことができず、腹痛と深刻な子宮感染症で苦しんでいます。
「私がここに避難してきた当時、トイレもきれいな水もありませんでした。そして今もその状況は変わっていません。石けんや洗濯用洗剤も使えず、汚れた洪水の水で生理用品として使っている布を洗わざるをえません。以前は布を地面に埋めて処分していましたが、今は何度でも使えるように、汚れた洪水の水で布を洗っています」
「近くの無償の医療キャンプに行ったところ、子宮から他の部分にも感染しているので、子宮を摘出するよう医師に勧められました。私たちは洪水ですべてを失ったので、そのような手術をする余裕はありません」
「また、この避難キャンプでは、飲用、調理用、そしてトイレで使う用の水をくみに行かなくてはならないため、負担が大きくなっています。しかし、私自身は体調不良のため、家事をすることができません。1日中ベッドの上で横になるほかなく、娘が私の世話やその他の作業をしてくれています」
ウォーターエイドが出会った女性や女の子たちの多くは、何も持たずに家から避難しました。その結果、月経中には(生理用品の代用として)着ていた服を使う以外に選択肢がなかったと言います。ラビアさん(40歳)はこう語ります。
「家を出るとき、月経のときに使う布やナプキンを余分に持っていくことができませんでした。着ていた服1着しかないのに、2日後に月経が来て、ドゥパッタ(スカーフ)を破いて代用しました。繰り返し何度も洗って使わなくてはならなかったのですが、雨のせいで乾きませんでした。濡れた布をずっと使っていると、体調にも影響が出てきました。下半身がかゆくなったり痛くなったり、それが何日も続きました」
また、仮設キャンプは往々にして交通量の多い道端にあり、プライバシーもないため、月経期間を安心して過ごすことができないと話す人もいました。14歳のナジアさんは、バディン県のハヤト・カスケリ村のキャンプで避難生活しているときに初経が来ました。
「初めて月経が来たときに感じた無力感と恥ずかしさは、今でも忘れられません。キャンプでは、見知らぬ人たちと隣り合わせで生活していました。人が外にいると、外に出て生理用品を洗うのがためらわれたので、外が暗くなるまで待っていました。これは非常に精神的に辛いものでした。」
女性や女の子たちは、気候変動の影響を不当に受けています。11月14日、COP27ではジェンダーがテーマとなっており、ウォーターエイドは世界のリーダーたちに対し、気候変動の影響を受けている女性と女の子たちがその影響に適応することができるように、水・衛生分野により多くの資金を拠出するよう呼びかけています。
シンド州で活動するウォーターエイドの州コーディネーター、ラヒーマ・パニュワールは、次のように述べています。
「国連事務総長のアントニオ・グテーレス氏は、COPにおいて『私たちは気候変動地獄へのハイウェイを走っている』と宣言し、危機感をあらわにしました。パキスタンの女性や女の子たちは、今まさにその地獄のような状況のなかを生きているのです」
「私は世界のリーダーたちに、気候変動の最前線にいるパキスタンの女性や女の子たちの言葉に耳を傾け、彼女たち、そして彼女たちのような何百万人もの人々を助けるためにできうるすべてのことをするよう求めます」
「もし行動を起こさなければ、さらに多くの人命が危険にさらされるでしょう。清潔な水、トイレ、衛生習慣は、女性や女の子たちが病気にかかることなく、学校に通い、生計を立て、自立するために不可欠なものです。世界のリーダーたちが行動を起こすのをこれ以上待つことはできません」
ウォーターエイドはシンド州において、休むことなく洪水の被災者支援を続けています。薬用石けんや歯磨き粉、蚊取り線香などが入った衛生キットを配布しているほか、飲料水の消毒、仮設トイレの建設、そして女性や女の子たちへの生理用品の配布を行っています。
[1] UNFPA: Women and girls bearing the brunt of the Pakistan Monsoon floods
[2] Government of Pakistan: Women and girls bearing the brunt of the Pakistan Monsoon floods