【プレスリリース】気候変動対策の少なすぎる予算が明らかに~年間1⼈当たりの支援額が1ポンドに満たない気候変動脆弱国も

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WaterAid Japan
on
6 March 2020
Priota happily posing with pitchers at the community PSF plant. Golchera, Harintana, Dacope, Khulna. September 2018.
Image: WaterAid/ DRIK/ Habibul Haque

気候変動に対し脆弱で適応力がない国々が受け取っている気候変動対策のための資金、あるいは緊急対策のために使われている資金は、ウォーターエイドの分析によると、非常に小さい金額であることが分かりました。ウォーターエイドは2020年3月5日、その分析などをまとめた報告書「気候変動対策の少なすぎる予算(Short-changed on climate change)」を公開しました。

報告書の主なポイントは次の通りです。

  • 世界各国が気候変動対策のために受け取っている資金を、温室効果ガスの排出を抑制する緩和策と、気候変動による影響に備えるための適応策を合わせて集計・分析したところ、半数の国が1人当たり年間5.2ドル(約560円)未満でした。
  • 気候変動に対する脆弱性で世界で7番目に位置づけられ、その被害の深刻さが懸念されているスーダンが受け取る気候変動対策のための資金は、年間1人当たり1.33ドル(約144円)でした。これは1ポンドにも満たない金額です。
  • 信頼性の高い給水サービスが機能していることは、現在および将来の気候変動の影響に対する重要な防御となります。しかし、世界の20億の人々は、気候変動の影響に耐えられるような給水サービスのない環境で暮らしています。
  • 自宅あるいは近所で水を手に入れられない人の割合が10%を超える国々についてみると、その半数の国では、気候変動に適応した水・衛生水道サービスを整備するために得ている資金は年間1人当たり1ドル(約108円)未満です。
  • 自宅あるいは近所で水を手に入れられる人の数が最も少ない10カ国についてみると、気候変動に適応した水・衛生を整備するために得ている資金は平均で、年間1人当たり0.83ドル(約70円)です。

この報告書は、ウォーターエイドが、気候変動対策に関する資金、水へのアクセスの状況、気候変動に対する脆弱性に関する公開済みのデータを活用して分析しました。

 

最も困窮している国々が十分な支援を得られず

ウォーターエイドの分析によると、半数の国が気候変動の緩和策および適応策のために受け取っている資金は1人当たり年間約560円未満でした。気候変動に対し最も脆弱な国のいくつかが受け取っている資金の額は、これよりも大幅に少ない金額にとどまっています。最も困窮している国々が十分な支援を得られなければ、気候変動の影響に効果的に対処することはできず、何十億人もの命を危険にさらしています。

ノートルダム・グローバル適応力指数(Notre Dame Global Adaptation Index)により、気候変動に対し最も脆弱で適応力がない国のランキングで第7位となっているスーダンが、緩和策と適応策とを合わせて受け取っている資金は年間1人当たり約144円です。スーダンの人々は1人平均、年間0.3トンの二酸化炭素を排出していますが、この量は日本の1人平均の排出量の30分の1以下です(*)。同じランキングで第15位のウガンダは年間1人当たり約560円を受け取っています。

 

水に困窮する国への水・衛生の適用策への支援もわずか

自宅あるいは近所で水を手に入れられない人の割合が10%を超える国々についてみると、その半数の国では、気候変動に適応した給水サービスを整備するために得ている資金が年間1人当たり1ドル(約108円)未満であることが分かりました。

自宅あるいは近所で水を手に入れられる人の割合が少ない10カ国が、気候変動に適応した給水サービスを整備するために得ている資金は平均で同0.83ドル(約70円)でした。

人口の半分近くが自宅や近所で水を手に入れることができないマダガスカルが得ている資金は、同0.17ドル(約18円)でした。

カンボジアのシェムリアップに暮らすスレイ・ヌッチさんは、仕事に行っている間に洪水が発生し、2人の子供が流されてしまうのでは心配している
カンボジアのシェムリアップに暮らすスレイ・ヌッチさんは、仕事に行っている間に洪水が発生し、2人の子供が流されてしまうのでは心配する
Image: WaterAid/ Tom Greenwood

ウォーターエイドは、気候変動対策のための資金の総額を、早急に10倍にするよう求めます。これにより、現在、清潔な水を使うことができない生活を強いられている人々が水を使えるようになり、 気候変動に立ち向かう力を高められます。

最貧困層に属する人々にとって、気候変動の影響は、深刻な干ばつや海面上昇、広範囲におよぶ洪水、強力な嵐など、いずれも水に関連する災害や困難として現れ、受け止められます。すでに限界に達している水源は、さらなる圧力を受け、清潔な水へのアクセスはこの上なく脆弱になります。気候変動による影響を最も大きく受けているのは、気候変動の原因を生み出してこなかった人々たちです。

 

清潔な水へのアクセスは気候変動に対する防衛線となりますが、気候変動に脆弱で適応力の弱い国々は、現在、清潔な水へのアクセスができない国々です。約8億人は、近所にも公共の井戸や覆いのある井戸はなく、清潔な水を手に入れることができません。20億人は、汚染の心配のない安全な給水サービスを使うことができず、水を媒介とする疾患やひいては死亡の危険にさえさらされています。

水へのアクセスを改善し、気候変動にも耐えられるような設備とするには、これまで以上の資金が必要です。

来週、ウォーターエイドは「水と気候変動に関するサミット」を開催する予定です。この会合には、政府、財界、援助機関のリーダー、イギリスのウェールズ公らが参加し、気候の危機が水の問題にどのような影響を与えているかという緊急かつ見落とされてきた問題を議論し、行動につなげます。水は、温暖化が進む世界で人々が生き残るために必要なものです。

 

ウォーターエイド・イギリスのCEO、ティム・ウェインライトの話

「英国の洪水や、米国やオーストラリアの森林火災、沿岸部の海面上昇など、世界中の何十億もの人々がすでに気候危機の影響を受けて生活しています。しかし、気候変動によってもたらされる苦しみの多くはニュースになりません。影響を受けるのは、多くの場合、気候変動の原因をほとんど作り出してはこなかった貧困で脆弱なコミュニティです。にもかかわらず、こうしたコミュニティが必要なだけの清潔な水を見つけることが年々、難しくなっています」

「我々の報告書によると、気候変動に最も脆弱な20カ国の半数が得ている気候変動に対処するための資金は毎年1人当たり8.3ドル(約900円)未満であることがわかりました。このうち水関連に費やされる金額は、わずかです。清潔な水なしでは誰も生き残ることはできず、水を見つけるために困難があれば、繁栄は遠のきます。誰でも、どこに住んでいても、どのような天候であっても水が安定して供給されるのであれば、人々は気候変動に対処することができるようになるでしょう」

「今後、極端な気象現象や予測が難しい気象現象は多発し、安全な水を手に入れられない人が増えていくでしょう。多くの命と生計が失われていくことを、何もせずに見ているわけにはいかないのです」

報告書「気候変動対策の少なすぎる予算(Short-changed on climate change)」(英文)はこちらから

(*) 世界銀行(2014) Country Profiles

表1:気候変動の脆弱国と気候変動対策に関する支援

脆弱性ランク

年間1人当たりの気候変動対策のための資金額、2010-2017($)

イエメン

29

1.17

スーダン

7

1.33

アンゴラ

46

1.58

中央アフリカ共和国

16

1.61

コンゴ民主共和国

12

2.27

ギニア

35

2.93

トーゴ

40

3.06

ジンバブエ

34

3.09

インド

51

3.24

コンゴ共和国

44

3.31

   

 

表2:水へのアクセスが困難な国と水・衛生のための気候変動対策に関する支援

自宅および近所で水へのアクセスができない人の割合(%)

年間1人当たりの水・衛生のための気候変動対策のための資金額($)

チャド

61

0.19

エチオピア

59

0.39

パプアニューギニア

59

0.82

南スーダン

59

2.37

コンゴ民主共和国

57

0.29

ブルキナファソ

52

1.94

ウガンダ

51

1.01

ニジェール

50

0.82

ソマリア

48

0.39

マダガスカル

46

0.17