【プレスリリース】保健医療施設の水・衛生改善へWHO年次総会で決議を

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17 May 2019
Dirty water is used to wash medical equipment at Mulotana health centre, Boane District, Mozambique, October 2016.
Image: WaterAid/ Sam James

感染症に加え、耐性菌「スーパーバグ」対策にも緊急の課題 

多くの薬剤に耐性を持つ「スーパーバグ」など、薬剤耐性の問題(AMR)が保健医療分野で世界的な非常事態を引き起こしています(注1)。 イギリス政府は薬物耐性を「破壊的な脅威」と呼び、2050年までに世界で年間1,000万人の命を奪うとも予想されています。感染症の拡大を防ぎ、薬物耐性の悪化を抑制するためには、開発途上国の保健医療施設で適切な水・衛生環境が整えられる必要があります。水・衛生を専門とする国際NGOウォーターエイド(会長=英国ウェールズ公、日本を含む世界34ヵ国で活動)は 、スイスのジュネーブで5月20日から28日に開かれる世界保健機関(WHO)の年次総会で、保健医療施設での水・衛生環境の改善に関する決議案が支持されるよう、各国の保健大臣らに強く呼び掛けます 。


細菌(病原菌)の感染・繁殖により、全身の臓器に障害をきたす敗血症をはじめ、下痢、肺炎、コレラなどの感染症は、適切な水・衛生環境さえあれば、拡大を防ぐことができる病気です。しかし、開発途上国では、病院や診療所の不衛生な環境のため、こうした病気が院内などで急速に広がり、新生児や妊産婦を含む多くの人の命を脅かしています。清潔な水や石けんを利用できない保健医療施設では、感染症の予防や治療のために抗生物質の過剰投与や誤った使用が行われており、薬剤耐性を持つ細菌の拡大にもつながっています。世界の保健医療施設で、清潔な水、適切な衛生設備、正しい衛生習慣の普及が緊急に必要とされています。

現在、世界では、約8億4400万人が清潔な水を手に入れることができず、世界人口の3分の1にあたる約23億人が適切なトイレを利用できないでいます。WHOとユニセフの最新の報告書(注2)によると、後発開発途上国では、ほぼ半分(45%)の保健医療施設が施設内で清潔な水を利用できません。世界の保健医療施設の5分の1(21%)は適切なトイレがなく、6分の1では石けんを使った手洗いが行われていません。WHOとユニセフは、世界中で15億人以上が現地の保健医療施設で、適切なトイレを利用できていないと推測しています。

2030年を年限とする持続可能な開発目標(SDGs)のゴール6で、「安全な水とトイレを世界中に」と掲げられているにもかかわらず、中低所得国での水・衛生環境の改善には課題があります。日本をはじめとする国際的な協力で、母子保健の状況は大きく改善し、多くの女性が保健医療施設で出産するようになってきています。しかし、そうした妊産婦を受け入れている多くの施設で、安全な水・衛生環境が整っていないうえ、薬剤耐性菌の脅威も増大しています。

ウォーターエイドの健康と衛生に関する上級政策アナリスト、ヘレン・ハミルトンは「適切な水・衛生環境と感染防止管理対策がなければ、薬剤耐性の脅威は高まります。これは、特に抵抗力の弱い母親と新生児が出産時、防げるはずの敗血症などの病気にかかってしまい、命を落とすことを意味します。政治的な意思がなければ、この問題を解決することはできません。予防は治療にまさりますが、保健医療施設の水・衛生設備の改善は、政治レベルで緊急性のある項目として挙げられていません。各国の保健大臣は、水・衛生環境の改善が病気と薬剤耐性の抑制のために重要であることを広めるために政策を打ち出す必要があります」と話しています。

また、ウォーターエイドジャパン事務局長の高橋郁は「感染症や薬剤耐性の脅威は、国境とは関係なく、私たち全人類を脅かしています。日本は、“すべての人に健康を”の言葉で表されるユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC、注3)を早期に達成した国として評価され、母子保健やUHCに関する協力も続けています。保健医療施設での水・衛生の問題は、UHC達成に向けた重要な課題の1つでもあり、この分野でも世界的な貢献が期待されています」と話しています。

(注1) 薬剤耐性(AMR)が引き起こす危機:

  • 世界銀行によると、薬剤耐性感染は世界経済に、2008年の金融危機と同程度の経済的損害を引き起こす可能性がある。
  • 今、薬剤耐性に対して取り組まなければ、2050年までに、3秒に1人が薬剤耐性感染により命を落とす事態となる可能性がある。
  • WHOは、世界で毎年49万人が、多くの薬剤に耐性を持つ結核を発症するようになり、それによりHIV/エイズやマラリアへの取り組みにも影響が出始めるだろうと推測する。
  • 下痢、肺炎、コレラは現在、一般的には抗生物質で治療されているが、抗生物質の使用により薬剤耐性を持つ菌が増大している。一方で、下痢、肺炎、コレラは、水・衛生環境の改善によって予防可能なことが多い。
  • 毎年約289,000人の子供たちが、不衛生な水・衛生設備によって引き起こされる下痢性疾患で命を落としている。その数、1日あたり約800人で、2分に1人の子供が亡くなっていることを意味する。
  • インド、ナイジェリア、インドネシア、ブラジルでは、年間に4億9,400万件の下痢症例が抗生物質で治療されていると推定されているが、水・衛生環境の改善で、下痢を予防するための抗生物質の使用を60%削減することができる。
  • 最近の医学誌Lancetによると、院内感染は薬剤耐性の世界的な拡大を生じさせている3番目に大きな要因である。

(注2)世界の保健医療施設の水・衛生や廃棄物処理、清掃の状況を対象とした、ユニセフと世界保健機関(WHO)による水と衛生に関する共同モニタリングプログラム(JMP)の最新報告書(WASH in Health Care Facilities)

(注3)すべての人々が、十分な質の保健医療サービスを、必要な時に、負担可能な費用で受けられる状態のことを、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)と呼ぶ(出典:JICAウェブサイト)

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【プレスリリース】保健医療施設でも水を使えない人が世界に9億人-感染症や薬剤耐性も悪化の危険(ウォーターエイドジャパン、4月25日)
https://www.wateraid.org/jp/news/wash-in-health-care-facilities