ウォーターエイドの取り組み:トイレを広める様々なアプローチ

Maria Angelina Deme sells, 37, Sato Pans at her kiosk. Timor-Leste. 2017
Image: WaterAid/ Jerry Galea

トイレなどの衛生設備が整っていなければ、人々は病気の感染リスクにさらされるほか、プライバシーや個人の尊厳が守られないなかで生活しなければなりません。この問題を解決するためには、すべての家庭に適切なトイレが設置されること、そしてそれを住民が使い続けることが大切です。効果的な衛生プログラムでは、トイレというインフラを設置するだけでなく、人々がトイレを作ったり買ったりする意欲を持つこと、耐久性が高く衛生的なトイレを設置するために必要な材料や技術が地域に存在すること、人々がトイレを維持管理し、持続して利用すること、自分でトイレを作ることが困難な人に配慮すること、といった点に焦点をあてる必要があります。ウォーターエイドは、様々な衛生行動変容を促す活動やコミュニティでの活動を通じてこうした点に取り組み、すべての人々がトイレを利用する世界の実現を目指しています。 

トイレなどの衛生設備を普及するアプローチには様々ありますが、そのなかでどれが適切であるかは、文化や人口密度、地理的条件、既存の規範や政策など状況によって異なります。ここでは、最も一般的な手法をいくつか紹介します。 

アプローチを選択する際は、現状や現在の人々の行動をより深く理解するために、詳細な調査を行います。最も脆弱な層を含むすべての人に届き、また、大規模かつ持続可能で長期的な変化をもたらすアプローチを選択する必要があります。衛生設備・トイレの取り組みに求められる成果は、「排せつ物を封じ込める」ために習慣を変え、野外排せつをなくすことですが、同時に、手洗いや水処理、月経衛生管理など、他の衛生習慣とも密接につながっています。  

衛生設備・トイレのアプローチの概要

衛生設備・トイレのアプローチには、大きく分けると「コミュニティからのアプローチ」と「市場(マーケット)からのアプローチ」の2種類があります。一般的に、「コミュニティからのアプローチ」は、住民の間で、トイレを利用するという需要を喚起することを目的としており、結果として各家庭がトイレを自ら建設することが可能な農村部でよく用いられています。都市部では、トイレ製品のサプライチェーンを構築し、マーケティングを通じてトイレの需要を高めることを目指す「市場からのアプローチ」がより効果的という傾向があります。また、複数のアプローチを組み合わせることが最善である場合もあります。 

  • コミュニティからのアプローチ 

1. コミュニティ主導型総合衛生管理(Community led total sanitation:CLTS) 

CLTSは、住民が野外排せつすることの課題を認識し、村全体が「野外排せつゼロ」を達成するための行動をとることを後押しする手法です。この手法では、野外排せつの状況を把握するために、住民参加のもと村の地図を作成した後、実際に村を歩いて野外排せつに使われている場所や周囲の衛生状況を観察します。また、野外排せつに対する「嫌悪感」を喚起するために「大便・糞(shit)」という意味の現地の言葉を使うこともあります。こうして、住民が、野外排せつをやめよう、そのためにトイレを設置しよう、と行動を起こす「きっかけ」を作り出します。CLTSのこのコミュニティにおける「きっかけ」作りを効果的に行うためには、熟練したファシリテーターの存在が欠かせません。 

ウォーターエイドの現地パートナーKIRDACが実施する村の地図作成ワークショップに参加する住民たち(ネパール)

ウォーターエイドの現地パートナーKIRDACが実施する村の地図作成ワークショップに参加する住民たち(ネパール) 

2. 参加型アプローチによる衛生行動と環境衛生の変革 (Participatory hygiene and sanitation transformation : PHAST) 

PHASTは、コミュニティが参加型の活動を通じて地域の水と衛生の状況・課題を認識し、自分たちで、状況を改善するための計画を立て、その計画を実行していく、という手法です。PHASTでは、現地の言葉を使いながら、実際に現地にある衛生問題を解決するために、「問題の特定」、「問題解決に向けた計画策定」、「計画の実行」といった7つのステップを実行していきます。PHASTに取り組むためには、熟練した経験豊富なファシリテーターと、コミュニティ・ワーカーのきめ細やかなトレーニングが欠かせません。また、PHASTを開始する前に、コミュニティによる全面的サポートを確保することも重要です。 

3. リーダー主導型の総合衛生管理 (Leader led total sanitation :LLTS) 

LLTSは、ウォーターエイド・ブルキナファソが、同国の衛生設備・トイレへのアクセスを加速させる目的で開発した手法です。この手法は、資金調達によってCLTSを補完するために行われるもので、地域の閣僚や事業家、サッカー選手などのリーダーたちが、自分のコミュニティの衛生環境を変えるという強い意志のもと、自らの資金を拠出。その資金を使って、トイレを必要としている人々が、トイレを入手できるようになる、というものです。このプロセスには、リーダーたちに対する働きかけ、チャリティ番組や寄付金マッピングなどがあり、リーダーは、これらのプロセスを通じて、「このコミュニティの衛生環境を変える」というモチベーションを高め、コミュニティから野外排せつを無くすために行動するようになる、というしくみです。 

4. 地域医療クラブ (Community Health Club : CHC) 

CHCは、住民の有志がボランティアとして参加するクラブで、住民の健康を改善することを目的としています。この手法では、参加型の健康増進活動に関するトレーニングを受けた保健普及員が中心となって、定期的なミーティングを行います。CHCには、誰でも参加することができますが、参加メンバーは、宿題や家庭訪問を通して、学んだことを家庭で実践することが求められています。CHCは、交流の場であると同時にメンバー間で競争する場でもあり、メンバーは、健康について理解を深めると同時に、こうした取り組みに従事することによって社会的地位が向上する、という側面があります。字の読み書きができない人々でもCHCのメンバーになることができ、また、女性が積極的にメンバーとして活動することで、家族や地域社会における女性の立場を向上させることも目指しています。さらに、CHCは、住民と政府の間の橋渡し役も担っています。 

  • 市場からのアプローチ 

市場からのアプローチでトイレを広めることを目指すこの手法は、本来ビジネス・商業向けに開発されたマーケティングの手法を公益(ここではトイレの普及)のために活用する、というものです。広告宣伝によって、「トイレが欲しい」という需要を喚起し、同時に、人々が必要とする、欲しいと思うトイレ製品を開発します。 

5. サニテーション(衛生設備)・マーケティング (SanMark) 

SanMarkは、住民を「受益者・裨益者」ではなく「消費者」「顧客」としてとらえる手法です。この手法では、地元の民間企業と協力して、「消費者」「顧客」(=住民)のニーズに合ったトイレ製品を供給します。SanMarkは、住民にとって魅力的なトイレ製品を開発し、その魅力的なトイレを住民が簡単に入手できるようサプライチェーンを構築すること、そして民間企業がトイレ市場に参入しやすくすることを目指しています。SanMarkは、トイレ製品の需要を高めるために、住民のニーズや要望、どういった製品であればお金を払いたいと思うのかなどの調査を行い、調査結果に基づいた広告宣伝やマーケティングを企画・実施します。 

  • ハイブリッド型のアプローチ 

これまで紹介した手法を組み合わせてトイレの普及を目指すことも多くあります。様々な手法を最適な形で組み合わせるためには、ベースライン調査、形成的研究、政治経済分析など、関連データを収集したうえで丁寧に分析することが不可欠です。こういった調査分析の結果と、各アプローチ・手法に関する知見を照らし合わせ、各地域の状況に最適なプログラムを設計します。 

ナイジェリアの事例:持続可能な総合衛生(Sustainable Total Sanitation:STS)

ウォーターエイドは、ナイジェリアのエキティ州、エヌグ州、ジガワ州の3州において、人々のトイレの利用を広めるためのアプローチとして「ハイブリット型」を選択。サニテーション・マーケティングとCLTSを応用した手法を取り入れました。

ウォーターエイド・ナイジェリアは、農村部のトイレの状況を改善するために、長年にわたってCLTSを用いてきました。一方、その結果を分析した結果、CLSTの有効性が一定レベルで確認されたものの、特にCLTSの「きっかけ」作りを経て設置されたトイレについて、その質に課題があることがわかりました。

この結果を踏まえ、ウォーターエイドは、サニテーション・マーケティングとCLTSを組み合わせた「持続可能な総合衛生(STS)プロジェクト」を計画。適切な質のトイレがこの地域に供給されるよう、同地域のトイレを供給する事業者に対して、資金調達や広告宣伝の側面からサポートしました。同時に、コミュニティでは、引き続きCLTSを実施したほかトイレの利用を促進する広報宣伝活動や、衛生促進のための行動変容コミュニケーションを実施し、トイレに対する需要を高めました。

このプロジェクトを通じて、詳細なマーケット調査を実施、そして人々のニーズ・好みに合ったトイレの設計を取り入れた結果、トイレ製品市場に新製品が参入することにつながりました。また、ウォーターエイドは、トイレの製造者を対象に、事業のプロセス改善、さらに個別訪問を通じた販路拡大をサポートしました。さらに、コミュニティが閉鎖的であるなど、通常のCLTSが効果的ではない可能性のある地域・コミュニティでは、CLTSの手法に適宜変更を加えるといった工夫を講じることによって、トイレ製品の需要喚起につなげました。

STSプロジェクトの一環で実施した、市場でトイレ販売促進イベントの様子 (ナイジェリア)
STSプロジェクトの一環で実施した、市場でトイレ販売促進イベントの様子 (ナイジェリア)

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