【活動レポート・ブログ】ネパール:予防接種プログラムに衛生教育を組み込む ー10月15日は世界手洗いの日

Female health volunteer conducting hygiene session at District Hospital Khalanga, Jajarkot, Nepal, May 2017.
Image: WaterAid/ Mani Karmacharya

下痢は5歳以下の子供の2番目に大きな死因です。石けんで手を洗うというシンプルな行為で、下痢性の病気でなくなる子供を47%減らすことができますが、多くの人は手洗いのような衛生習慣と健康が密接な関係にあることを知りません。

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日本においても、正しい手洗いの仕方を多くの人が理解しているにも関わらず、毎年きちんと手を洗わなかったことによるインフルエンザやウイルス性胃腸炎の流行が発生します。

10月15日は世界手洗いの日。正しい手洗いを広めるため、国際衛生年であった2008年に制定されました。この日をきっかけに、衛生習慣の大切さについて考えてみませんか。

ウォーターエイドはネパール政府と連携し、予防接種クリニックを利用する多くのお母さんと赤ちゃんを対象に衛生習慣の普及を目指す、新しいアプローチに取り組んでいます。

 

予防接種を通じて衛生習慣を変える

ネパールでは、トイレの後に手を洗わない、洗っていない手で幼い子供に食べ物を食べさせる、乳幼児用の食事を衛生的に保管しない、食べ物を十分に加熱しないなど、不適切な衛生習慣が日常的に行われています。このような行動によって、高い確率で下痢が発生し、ときには死に至ることもあります。特に幼い子供たちが不適切な衛生習慣による危機にさらされており、お母さんたちを対象とした衛生習慣の改善が急務です。

ネパールでは、出産したばかりのお母さんは、赤ちゃんが9か月になるまで最低5回、赤ちゃんを予防接種クリニックに連れて行きます。そのため、こうしたクリニックは、衛生習慣の改善や健康状態の向上を促すのに最適な場所です。

この革新的なプロジェクトは、ネパールで現在行われている予防接種プログラムに衛生習慣を広めるための活動を組み込むことによって、衛生教育と保健セクターをつなぐ画期的な役割を果たす可能性を持っています。

 

4つの郡で試験的にプロジェクトを実施

このプロジェクトは、ネパールのバルディヤ郡、ジャジャルコット郡、ミャグディ郡、ナワルパラシ郡の4つの郡において、下記の目的で試験的に実施されています。

  • 2017年以降のロタウイルスワクチンの導入に先駆けて、国の定期予防接種プログラムに衛生習慣を広めるための活動を取り入れること。
  • ネパール全土で展開していくために、このアプローチの成功事例を示すこと。

またこのプロジェクトは以下の課題に取り組むことも目的としています。

  • 衛生習慣を広めるための活動を通常の保健サービスのメカニズムに取り入れることは可能か。
  • このアプローチが、出産したばかりのお母さんとその家族が5つの重要な衛生習慣を身につけるのに効果的か。
  • このアプローチによって予防接種の有効性が高まるか。
  • 費用対効果が高いか。
  • このアプローチをネパール全土に展開していけるか。

このプロジェクトによって、予防接種サービスの信頼性と利用頻度が上がること、さらに今後導入されるロタウイルスワクチンを含む経口ワクチンの有効性が引き出されることは、既存のネパールの予防接種システムを強化することにつながります。下痢による死の3分の1はロタウイルスによって引き起こされると考えられているのです。

 

5つのステップ

本プロジェクトは、5歳以下の子供たちの死亡率が高いというネパールの重要な課題の解決に向けて、衛生習慣を広めるための効果的なアプローチを実証するため、綿密な計画と段階を踏んだ手順にそって行われます。

プロジェクトは次の5段階で行われます。
 

ステップ1: 現状を把握する

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Image: WaterAid
  • ウォーターエイドは、衛生習慣を広めるための活動を導入し発展させていくための十分な根拠を示すため、2012年に状況把握調査を行いました。結果はブリーフィング・ペーパーと開発のための水・衛生ジャーナルの記事に掲載しているほか、関係機関によって広く共有されています。
  • パイロットプロジェクトの概要と覚書は、ネパール政府および保健人口省、子供保健部門、そしてウォーターエイドの間で合意されています。
  • ウォーターエイドの支援によって保健人口省子供保健部門の下にテクニカルサポートの部署が創設され、プロジェクトの管理体制が強化されました。

 

ステップ2: 調査する

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Image: WaterAid
  • ウォーターエイドは、下記3つの目的を定め、体系的な調査を実施しました。
  1. 現在の予防接種システムを十分に理解する
  2. 人々の衛生に関する習慣や基準、傾向を決定づけている要素を調査する
  3. 人々が衛生習慣を実践することを阻む要因、ならびに人々の衛生習慣を促進する動機を把握する
  • このアプローチによって、プロジェクトの対象者が明確となり、その対象者に関する理解が深まりました。また、5つの衛生習慣を優先化することに決めました。

 

ステップ3: 創造する

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Image: WaterAid
  • ウォーターエイドは、5つの重要な衛生習慣に焦点をあて、革新的でありながらシンプルで広げていきやすい、衛生習慣の改善を広めるための「支援パッケージ」(衛生習慣セッションやその教材等)を作成しました。
  • 上記の「支援パッケージ」を作成する際には、分野を越えた総合的なクリエイティブグループによって、感性(育成、嫌悪、信頼、身分)や魅力といった創造科学を利用した、衛生習慣の変化を促す手法を構築、取り入れました。
  • すべての取り組みにおいて、1つの共通のロゴを使用することにしました。「理想の家族」になるというイメージをもとに、「清潔な家族、幸せな家族」というテーマのロゴを作成しました。
  • 「支援パッケージ」はまず、小さい規模で試験的に実施されました。衛生習慣の促進がプロジェクトの根幹に据えられ、国レベルで実施することを想定して作られています。

 

ステップ4: 実施する

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Image: WaterAid
  • ウォーターエイドは、ネパール政府の国家予防接種プログラムと連携し、4つの郡でプロジェクトを開始しました。2,193人の女性村落保健ボランティアと医療従事者が本プロジェクトに関わっています。
  • 国家予防接種プログラムでは、赤ちゃんは9か月までになるまでに5回予防接種に行くことになっています。そのため約35,000人の小さい子供(0~12か月)を持つお母さん・保護者を対象に、少なくとも5回の衛生習慣セッションを受けてもらうことができます。
  • お母さん・保護者は各回で、この「支援パッケージ」を利用した衛生習慣セッションを受け、、5つの重要な衛生習慣を身に付けることを学びます。
  • 現在、ウォーターエイドは、毎月900回の衛生習慣セッションを行っています。

 

ステップ5: 評価する

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Image: WaterAid
  • プロジェクト終了後は、プロジェクト開始時に設定した基準をもとに、重要な指標とその達成度を測る予定です。
  • 上記の基準を定める際には、重要な衛生習慣に関する指標など、関連するすべての指標を吟味しました。また、実際の予防接種の現場を確認したり、村落保健ボランティアの女性たちおよび医療従事者の能力を評価したりしました。
  • プロジェクトの有効性を高めるために、プロジェクト終了後にも同じ指標を用いて評価を行う予定です。

 

予防接種を通じた衛生習慣を広める活動は、ウォーターエイドの資金面および技術面の支援のもと、ネパールの保健人口省が主導しています。

このようなアプローチはこれまでどこの国でも行われてきませんでした。ネパールでのこの取り組みが成功すれば、国レベルだけでなく世界的にもこのアプローチを展開していける可能性があります。そうすれば、多くの子供たちの命を救い、子供と家族の健康を守ることが可能になります。