ギャングの暴力にうち勝つ

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Image: WaterAid/ Rodrigo Cruz

ギャングの暴力と清潔な水の不足を一挙に解決する方法があります。

プエルトカベサスは、小さいけれど活気あふれる、ニカラグア北部カリブ海沿岸に位置する自治地域の中心都市です。

現地語であるミスキート語の「ビルウイ」という名前で知られるこの都市は、暮らすには大変なところです。頻繁に停電が起こり、道路はきちんと網羅されておらず、学校は生徒でぎゅうぎゅう詰めの状態。日用品の値段も驚くほど高いのです。

川とラグーンに囲まれ、大西洋に面していながら、皮肉にも良質の水は手に入りにくい環境で、公共の水道を利用できているのはビルウイに暮らす人の20%です。公共水路や小川の水は安全でないことが一目でわかります。トイレを利用できるのは都市の人口の半分にすぎません。

Water supplies in Bilwi are poor and even those households connected to a piped supply only have limited access. Installing good quality pumps and toilets is expensive, therefore many people take advantage of the low interest loan provided by WaterAid and its partner. WaterAid/ Jordi Ruiz Cirera
ビルウイの配水塔から不衛生な水をくむ男の子
Image: WaterAid/ Jordi Ruiz Cirera

 

方向転換

ギャングの暴力と清潔な水の不足は、問題の根っこが同じであるようには見えないかもしれませんが、ウォーターエイドのある革新的なプログラムは、この2つの問題を一挙に解決する方法を見出しました。

2013年に立ち上げたこの独創的なプロジェクトによって、中途退学したり、深刻な家庭の問題に直面したり、あるいはドラッグやギャングに関わる危険性があったりする10代の若者が、技能を身につけて起業家になれる可能性が広がっています。

プロジェクトに参加した若者は、井戸とトイレの建築に必要な石工と配管の技術を学び、生活を妨げている可能性のある社会的問題や心理的問題を解決できるようにカウンセリングも受けます。

若者たちは、このプロジェクトを通じて自分で配管業を起業するための知識も学びます。そうすることで、若者の生活と彼らのコミュニティのどちらにも、長期にわたる変化がもたらされる可能性があるのです。

 

ロンさん

Ron builds a rope pump in Bilwi, Nicaragua.
Image: WaterAid/Jordi Ruiz Cirera

争いが起これば、石、大型ナイフ、時には拳銃をも使う「ヤングS.G.」は、サンジル地区を縄張りとし、12歳という若さの少年たちから成るギャングです。21歳のロンさんは、かつてはこのギャングの仲間でした。

「「ヤングS.G.」は盗みの常習犯でした。」とロンさんは話します。「暴力沙汰や、他の地区のギャングとの抗争もしょっちゅうでした。」

ギャングの暴力だけがロンさんの地元を悩ます問題ではありません。ここで得られる水は多くの場合、汚染されています。「マンゴーの木が井戸周辺で成長してその葉が井戸の中に落ちるんです。それで井戸の水が汚染されて水の色も変わります。その水を飲んで病気になったり、命を落としたりすることもあるのです。」とロンさんは言います。

配管技術研修プログラムの担当者がロンさんの家に来て、プログラムへの参加を提案したとき、彼はギャング生活から抜け出すだけでなく、地元に安全な水をもたらす方法があることを知りました。

ロンさんは新しい仕事を楽しんでいます。1人で仕事をすることもあれば、研修で知り合ったルーシーさんやウェスリーさんのような実習生と一緒に仕事をすることもあります。

 Ron and other trainees, Wesley and Lucy, build a rope well in Nicaragua.
Image: WaterAid/Jordi Ruiz Cirera

ロンさんを取材したとき、彼は4つ目の井戸を掘っており、地面から約18メートル、ちょうど真ん中あたりまで到達したところでした。かつては土木建築を学ぼうと考えていたロンさんですが、今では配管業の仕事がとても面白いと感じており、今のところ、起業するのが一番いいのではと考えています。「ギャングには将来がないですから。」と彼は話します。

 

ベッシーさん

ベッシーさん(16歳)は、配管工の新しい研修プログラムについて放送されていたラジオを聞いてすぐ、参加を申し込みました。

Bessy, 16, poses with her certificate which shows she has completed the AMEC training, at home in Bilwi, Nicaragua, August 2015.
「地元に関わる仕事がしたかったんです。自分に自信が持てるようになりました」
Image: WaterAid/ Jordi Ruiz Cirera

「この研修を始める前は何もしていませんでした。」とベッシーさんは話します。「当時私は中学1年生でした。妹が病気で、母と私はその世話をしに通っていたので、学校へは行ったり行かなかったりの繰り返しでした。でも、学校を辞めたくはありませんでした。」ベッシーさんはギャングがいかに地元を暮らしにくくさせているかを知って、ギャングとはけっして関わりにならないと決めました。

「ギャングの中には、嫌がらせをする者もいます。私の電話も盗まれました。地元と他の地区のギャングの抗争が起きたら、爆弾を作るためのガスタンクを盗みに家に入られることもあるのです。」

ベッシーさんは研修で、井戸の掃除の仕方、トイレの設置方法、ロープポンプの作り方を学びました。

ベッシーさんは研修の一環として行われたカウンセリングによって、両親との関係が良くなったと話します。「親にはよく大声をあげていました。今はそんなことありません。以前より穏やかになりました。」

よくなったのは彼女と家族との関係だけではありません。自宅の建物そのものもよくなりました。

「自宅に新しいトイレを作るのを手伝いました。これで戸外のトイレに行って泥だらけにならなくて済むようになったので、気分もよくうれしかったです。家族は私がトイレ設置の研修を受けたことを神様に感謝しています。」

 

エルトンさん

エルトンさん(19歳)は、彼の人生を変えるきっかけとなった、友人が命を落とした出来事について話してくれました。

Elton, 19, who works on making bricks for construction, Bilwi, Nicaragua, August 2015.

「14歳の時に学校を辞めました。当時巻きたばこを吸っていたので、そのころの唯一の目標はそれを買うお金を手に入れることでした。お金がない時は盗むか、暴力で手に入れていました。ギャングの仲間だったので町で争いがある時は、ときどき加担していました。

ある時、近隣のギャングとの抗争で、幼いころからの親友の一人が目の前で殺されました。

この出来事で、いずれ殺されかねないような、こんな生活のままではいけないと思うようになったんです。私は生活を変えようと、そしして自分自身のために何かをしようと思うようになりました。

近所の人がこのウォーターエイドの研修について教えてくれました。親友の一件がこの研修への参加のきっかけとなりました。

日中は何もすることがなかったので、研修に参加できることになってとてもうれしかったです。最初に研修に参加したとき、他の地区のギャングも来ていました。私も向こうも刃物でやり合う気持ちがあったので、とても怖かったです。しかし研修を受ける中で、顔を合わせる機会も増えて、私たちは友達になりました。

研修では、自分たちの生活について書くことが課せられました。この課題は本当に好きでした。自分の気持ち、ある状況についての感じたことなどについて書きました。家族とのけんかが絶えなかった当時の様子についても書きました。

家族との関係は、以前より良くなりました。コミュニケーションが増え、よく話し合うようになり、家族は私を信頼してくれるようになりました。両親は勉強を続けるように後押してくれ、教育を受けることがいかに大切かを教えてくれました。それで、学校に戻りました。

ここでの生活は良くなっていくでしょう。住人は水の入手に多くの問題を抱えており、時には遠くまで行かなければなりません。安全な水を飲むことができるようになれば病気にかかることも減るでしょうし、家にトイレがあれば衛生状態も改善されるでしょう。

 

本気で取り組む

井戸やトイレを必要としている人がいるにも関わらず、こうした設備をほとんど供給できていない地区では、若い配管工にとって仕事を得るチャンスがたくさんあります。

もちろん、井戸もトイレも安くはありませんし、これらを必要とする人にいつも前金を払う余裕があるとはかぎりません。そのため、ウォーターエイドは研修事業と同時に、低金利の少額ローンを提供する現地組織パナパナの支援も行っています。

スイエンさんにとって、井戸はとても高く買えません。けれど井戸なしの生活もまた大きな負担でした。

「自宅で洗濯ができなかったので、叔父の所で洗濯しなくてはなりませんでした。毎週、往復のタクシー代がかなりの出費になりました。」

たとえほんのわずかでも家に水をストックしておくために、スイエンさんのいとこの子供たちが毎回へとへとになりながら、たるに水をくんで、狭い道を転がし、水路を渡って運んできてくれます。

スイエンさんが借り入れをしようとパナパナに相談すると、すぐに10代の若者のチームとその責任者が新しい井戸を作るために彼女の家を訪ねてきてくれました。

Suyen, pictured with a rope pump she bought through the scheme, in Bilwi, Nicaragua, August 2015.
Suyen, pictured with a rope pump she bought through the micro-finance scheme.
Image: WaterAid/Jordi Ruiz Cirera

「みんなとても腕がよかったわ。」と彼女は当時を振り返ります。「みんな仲がいいし、仕事をとても楽しんでいました。」