いまだつめ跡は消えず

sierra_leone_645
Image: WaterAid/ Jo Lehmann

シエラレオネではエボラ出血熱の終息が宣言されましたが、いまもその影響が色濃く残っています。

2015年11月7日、WHO(世界保健機関)によって、シエラレオネでエボラ出血熱の終息が宣言されました。喜ばしいことですが、ウォーターエイドの広報担当ジョー・レーマンは、国内、特にこのエボラ出血熱の流行で疲弊しきった診療所や病院では、いまもエボラ感染の影響が色濃く残っている状況だと言います。
 

終息宣言

露店から大音量の音楽が鳴り響く中、29歳のソングさんは、シエラレオネの首都フリータウンの通りを歩いています。

「昨年の今頃、私たちは何千もの遺体を移送用の袋に入れていました。人々はおびえて外出することができませんでしたが、今日やっとそんな状況から解放されました。」とソングさんは言います。

終息の目安となる42日の間に新たな感染例が確認されなかったことから、11月7日、世界保健機関はシエラレオネに対し正式にエボラ出血熱の終息を宣言しました。

しかし、命にかかわるエボラ出血熱感染の影響は、混乱したこの町のいたるところにみられます。道ばたの広告看板は住民たちに警戒するよう訴え続け、検問所の警備員は体温計と手指用の消毒薬を常備しています。
 

無差別に襲うウイルス

フリータウンよりほど近い街ウォータールーの郊外に、エボラ出血熱の流行を象徴する「グラウンド・ゼロ」があります。エボラ出血熱によって亡くなった人々が眠る墓地です。3歳の男の子のお墓の隣に99歳の女性のお墓があることからも、この致死的な感染症が無差別にこの国の人々を襲ったことがわかります。

cemetery_645
シエラレオネのフリータウンにあるエボラ出血熱で亡くなった人々の墓地
Image: WaterAid Sierra Leone

墓地には若い母親が埋葬のために来ていました。その母親は、数日前に2歳の娘ナンシーちゃんを感染症で失ったのだと話しました。

雨で湿った丘の中腹には何百もの小さなお墓が並び、ナンシーちゃんもその子供用墓地に埋葬されます。ここに眠る子供たちは、エボラ出血熱ではなく、エボラ出血熱が大流行するずっと前からシエラレオネが闘ってきた、本来は予防可能なはずの病気で命を落としました。

2013年には、シエラレオネの5歳未満の子供4,500人以上が下痢性の病気によって死亡したと見られています。国民の約87%が自分用の安全なトイレを持たず、37%以上が清潔な水を利用できないこの国では、おかしなことではありません。

とりわけ衝撃的なのは、生後1か月に満たない赤ちゃんのお墓の数です。
 

最も危険な出産場所の一つ

エボラ出血熱が大流行する前でさえ、シエラレオネは世界で最も危険な出産場所の一つでした。

シエラレオネでは、平均して21人に1人の女性が生後1か月で赤ちゃんを感染症によって失います。一方イギリスにおける同様のリスクは、7,518人に1人です。

エボラ出血熱の大流行でこのリスクはさらに大きくなりました。ウォーターエイドが国際的なボランティア団体であるVSO(Voluntary Service Overseas)と協力して行った新しい調査(英語)では、大流行による危機的状況の最中、母親の死亡が30%、新生児の死亡が24%も増加したことがわかりました。

エボラ出血熱の大流行で医療システムが麻痺し、医療に欠かせない水や衛生設備もほとんど使えない状況で、多くの母親は怖くて病院で出産することができなくなりました。17歳のムス・モンソレイさんもそんな母親の1人です。

「感染するのが怖くて、妊娠中は健診を受けるために病院へ行くことができませんでした。」とムスさんは話してくれました。「妊娠中は、助産師に2度診てもらうのがやっとでした。」

sierra_leone_645
ムスさん(写真右)。フリータウン、ニューイングランドビル地区にある自宅近くで。
Image: WaterAid/ Jo Lehmann

ムスさんはフリータウンのニューイングランドビル地区の小さな小屋で暮らしています。他の多くの家と同様に、安全な水は利用できず、トイレは台所と同じ場所にあり、衛生的な環境を作るのは難しい状況です。

ムスさんは、産気づき、生まれる直前になってようやく近所の人に病院へ急送してもらったそうです。とても悲しいことに、死産でした。
 

「エボラ出血熱がなければ、状況は違っていたでしょう」

ムスさんの赤ちゃんの死因を特定するのは不可能です。しかし、不衛生な水と衛生環境の悪さによる慢性的な下痢で幼少期の発育が阻害された女性は、妊娠中に閉塞性分娩などを含む合併症が生じる可能性が高いのです。

妊娠中の健康状態がすぐれない女性も合併症を引き起こしやすく、さらに閉塞性分娩などで出産が長時間にわたる場合や、助産師がきちんと石けんで手を洗えないような不衛生な環境で出産する場合にも、感染症にかかる危険性があります。

「エボラ出血熱がなければ、状況は違っていたでしょう。」とムスさんは言います。「定期健診にも行ったと思います。それができなかったので、私の赤ちゃんは命を落としました。」


保健医療システムの信頼回復

シエラレオネでは、医療システムに対する大きな恐怖のつめ跡が今なお残っており、多くのお母さんが病院に行くのをためらっています。

「エボラ出血熱の大流行のピーク時は、病院は死人のための場所と見られていました。」とキング・ハーマン・ロード政府病院のアマドゥ・セセイ医師は言います。

「シエラレオネの保健医療システム、特に母子保健に関する信頼を回復していかなければなりません。」

sierra_leone_hospital_645
キング・ハーマン・ロード政府病院で生まれたサラちゃん
Image: WaterAid/ Jo Lehmann

隣室で分娩中の女性が大きな叫び声をあげています。セセイ医師が立ち会うために向かい、数分後サラちゃんが生まれました。母子ともに無事で、健康状態も良好。しかし、サラちゃんにとって、これからの28日間が最も病気にかかりやすい時期です。

エボラ出血熱の大流行の影響を断ち切り、新生児が無事に成長するために、シエラレオネは「清潔」を保健医療の中心にすえるべきです。

病院で安全な水と衛生的な環境が利用できない状況はもはや許されません。サラちゃんの命はそこにかかっているのです。
 

今冬、すべての赤ちゃんとお母さんのためにご支援をお願いします

今冬、ウォーターエイドは13万人のお母さんとその家族に安全な水を届けるためのキャンペーンを行っています。

 

ご支援はこちらから。

 

写真で見るエボラ出血熱終息後の暮らし

SLblog8171648x454
検問所の監視員が男性に接触せずに検温をする様子
Image: WaterAid/ Jo Lehmann
SLblog8173648x454
フリータウンの検問所にある手洗い場
Image: WaterAid/ Jo Lehmann
SLblog8203648x454
「エボラをくい止められるのはあなただけ」と書かれたフリータウンの通りの看板。シエラレオネではエボラ出血熱の終息が宣言されたが、道ばたの広告看板はいまだ住民に警戒を呼び掛けている。
Image: WaterAid/ Jo Lehmann
SLblog8227648x454
エボラ出血熱の生存者に対する偏見を正すフリータウンの看板
Image: WaterAid/ Jo Lehmann
SLblog8241648x454
検問所の監視員が男性に接触せずに検温をする様子
Image: WaterAid/ Jo Lehmann
SLblog8262648x454
通夜でエボラ出血熱の大流行中に亡くなった人々にたむけるろうそくを灯す女性
Image: WaterAid/ Jo Lehmann