【活動レポート・ブログ】インド:チャッティースガル州カンケール県のコミュニティ・学校を訪問

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Image: WaterAid Japan

ウォーターエイドジャパンは、支援者の皆さまのご寄付によって、インドにおける水・衛生プロジェクトをサポートしています。2023年9月、ウォーターエイドジャパンの高橋が現地に入り、チャッティースガル州カンケール県における水・衛生プロジェクトの状況を確認してきましたのでご報告いたします。本視察には、2013年以来、ウォーターエイドジャパンにご支援くださっているアビームコンサルティング株式会社の3名にもご参加いただきました。 

インドが直面する水危機とウォーターエイドの活動

インドは、驚異的な成長を続けている一方、その成長の陰で、人々の生命を脅かすほどの水危機に直面しています。インド政府のシンクタンク「Niti Aayog」が発表した「複合水管理指標2018」によると、インドではおよそ6 億人が水不足の状況にあり、干ばつによる水源の枯渇、ヒ素やフッ化物による水質汚染など、さまざまな水問題が発生しています。特に近年、気候変動の影響を受けて、各地で地下水の減少が顕著です。インドでは人口の80%が、飲用として地下水を利用しており、このまま地下水が減り続けると、2030 年までに飲料水を入手できなくなる人の割合が人口の約40%にのぼると予測されています。

この状況を受けて、インド政府は2024 年までにすべての農村部の家庭で水道を利用できるようにすることを約束し、各地で給水設備の設置・修復、雨水の貯留、地下水保全の取り組みを強化しています。ウォーターエイドは1984年からインドにおける活動を開始。現地政府や住民が主体となって、地域の水・衛生問題を解決していくよう、そのしくみ・体制づくりを支援してきました。

今回訪れたチャッティースガル州は、インド中部に位置し、首都デリーから飛行機で2時間ほどの場所にあります。インドのなかでも貧困な州の1つであり、人口の約16%が、健康、教育、生活水準に関する指標からみて貧困状態にある(多次元貧困層)とされています。

学校における水・衛生の取り組み

2023年9月21日、私たちが最初に訪れたのは、パレワ村にある学校でした。ウォーターエイドはこの地域で数年にわたって活動しており、その活動の1つが、学校で安全な水を持続的に使えるようにするための雨水活用設備や排水管理システムといった設備の設置、そして生徒たちを対象とした手洗い等の衛生習慣の促進です。

私たちが学校に到着すると、先生・生徒たちが、学校のまわりでつんだというきれいな花を頭にかけてくれました。1つの部屋に行くと、先生たち・生徒たちが集まってくれていて、学校の概要を紹介してくれた後、正しい手洗い方法を示す歌をみんなで歌い、正しい手洗いのやり方を見せてくれました。 

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学校に到着すると、先生・生徒たちの温かいお出迎えが。
Image: WaterAid India
学校の皆さんと記念撮影
学校の皆さんと記念撮影
Image: WaterAid India

その後、外に出てウォーターエイドが学校に設置した排水管理システムを確認しました。この排水管理システムの建設は、近年、ウォーターエイドがインド各地の活動に取り入れているものです。インド各地で地下水が急激に減っていることを受けて、ウォーターエイドは地域の地下水を増やす取り組みにも注力しており、そのひとつが、雨水や家庭・学校から出る排水を地下に戻すしくみの構築です。例えば、家庭や学校の手洗い場やキッチンから出る排水は、そのまま放置しておいては、地域の衛生環境の悪化につながります。一方、排水を処理して、地下に戻せば、それは貴重な水資源となります。適切に排水を処理することで、衛生環境改善と水資源保全が可能になると言えます。

下の写真が、パレワ村の学校に設置した排水管理システムです。学校の手洗い場やキッチンから出た排水が、溝を通って学校裏庭の地下にある沈殿槽に流れこみ、そこで固形物が沈殿します。上澄みの水は、植物が植えられた石の層に移動し、処理されるというしくみです。この学校では、このように処理した水を、庭の植物への水まきに使ったり、地下水を増やすために地下に戻したりしていました。

学校に設置した排水管理システム
学校に設置した排水管理システム
Image: WaterAid Japan
学校に設置した排水管理システム
学校に設置した排水管理システム
Image: WaterAid Japan


地域の水の安全を守る女性たち
私たちは、パエラ村の学校を後にし、1449人が暮らすマトゥワダ・モディ村に車で移動しました。ウォーターエイドはこの地域で、村水衛生委員会の強化、住民を対象とした水質に関する理解向上や、水質検査体制の構築、トイレの改善などを進めてきました。この日は、村の集会所に集まってくれた、村水衛生委員会のメンバー、そして水質検査を担当する女性自助グループのメンバーに会いました。

本来、インド政府が推進する水の取り組みをけん引するのは村ごとに設置された「村水衛生委員会」です。この委員会は、村の水・衛生に関する課題を把握したうえで、住民参加の話し合いを経て水・衛生改善計画を策定し、政府から予算を確保して計画を実行する役割を担っています。ところが、実際にはこの委員会が機能していないことが少なくありません。ウォーターエイドはこうした状況を改善するため、村水衛生委員会を対象にトレーニングを実施するとともに、村水衛生委員会を支える体制作りにも取り組んでいます。例えば、地下水の汚染が発生している地域では、村水衛生委員会が個々の給水設備の水質を把握したうえで、どの給水設備を修理し、どこに新しい給水設備を設置するかを決める必要があります。ウォーターエイドはこうした地域で、その地域内にある各村の女性や若者が参加するボランティアグループを立ち上げ、地域の水問題や、フィールド用水質検査キットを用いた水質検査の方法に関するトレーニングを実施しています。

マトゥワダ・モディ村で、水質検査を担当している女性自助グループのメンバーである女性たちは、ウォーターエイドのトレーニングを受けて、清潔な水とトイレ、衛生習慣が住民の健康のために重要であることを認識し、水質検査を通じて、それを村のなかで広めていくという自分たちの役割について理解を深めたとのこと。訪問者である私たちに対して、誇りをもって自分たちの役割を説明してくれました。強い使命感にあふれるその言葉を聞き、このコミュニティが今後、地域の水・衛生の改善を成し遂げ、カンケール県、さらにはチャッティースガル州の「見本」となっていくだろうと期待がふくらみました。

水質検査を担当する女性グループのメンバー
水質検査を担当する女性グループのメンバー
Image: WaterAid Japan

子供たちが地域の「チェンジエージェント」に
夕方になり、私たちが最後に訪れたのは、人口683人のイチャプール村でした。ウォーターエイドはこれまで、村の水・衛生改善計画の策定、ならびに計画の実行を支援してきました。2022年度は、この計画のもと、家庭レベルとコミュニティレベルの排水管理システムを設置しました。また、学校では、トイレの改修、手洗い設備と雨水活用設備の新設を行ったほか、学校の給水設備とトイレが適切に維持管理され、衛生習慣が持続して実践されるよう、「学校内閣」(学校で生徒のなかから「衛生大臣」「環境大臣」などを決め、それぞれの分野で役割を果たすしくみ。日本の学校の「〇〇係」に近いもの)との連携を進めました。

私たちがイチャプール村に到着すると、夕方になってしまったにもかかわらず、住民や学校の生徒たちが歌や踊りで盛大に迎えてくれました。学校まで案内してもらい、建物に入ると、並べられた机に、「学校内閣」のメンバーである生徒さんたちが10人くらい座っていて、机上には三角柱の名前札が。そこには「財務大臣」「環境大臣」「衛生大臣」といった役職名とともに生徒さんの名前が書いてあり、それぞれの「大臣」が、堂々と活動内容を紹介してくれました。

「学校内閣」のメンバーが、学校で習った手洗い方法を披露
「学校内閣」のメンバーが、学校で習った手洗い方法を披露
Image: WaterAid Japan

この学校でも、最初に訪れたパエラ村の学校でも、生徒たちが積極的に学校の衛生環境向上の取り組みに取り組んでいるのが印象的でした。ウォーターエイドは、地域の子供たちが「チェンジエージェント」(変革を促進する人)となり、地域の水・衛生を変えていくことを目指していますが、子供たちが活発に衛生環境改善に取り組む姿を見て、期待いっぱいの気持ちで視察を終えて、帰路につきました。

アビーコンサルティングの皆さま
学校の排水管理システムの説明受けるアビーコンサルティングの皆さま
Image: WaterAid Japan
記念撮影
マトゥワダ・モディ村の住民とアビームコンサルティングの皆さまで記念撮影
Image: WaterAid India