【プレスリリース】サハラ以南のアフリカでは、保健医療施設でかかる感染症により毎年84億ドルが失われていることが明らかに
世界保健デーである4月7日、水・衛生専門の国際NGOウォーターエイドと世界銀行の新しい報告によって、保健医療施設における清潔な水、適切なトイレ、手洗い設備の欠如に起因する感染症により、サハラ以南のアフリカでは、毎年84億ドルの損失が生じていることが明らかになりました。
サハラ以南のアフリカでは、保健医療施設において罹患した敗血症や肺炎などの感染症によって、毎年84億ドルの損失が生じており、また、数千人の人々が命を落としています。ウォーターエイドと世界銀行が2024年4月7日に発表した調査結果によって、こうした感染症の少なくとも半分は、保健医療施設で清潔な水と衛生設備が使えるようになり、手洗いを実践できるようにすることで、防ぐことが可能であることが明らかになりました。新しいデータは、もし保健医療施設における感染が半減すれば、毎年少なくとも13万8000人の命が救われ、42億ドルの経済的損失を避けることが可能であると示しています。
ウォーターエイドは、ナイジェリア、マラウイ、エチオピア、ザンビア、ウガンダ、マリ、ガーナのアフリカ7カ国を対象に、世界銀行が開発した方法を用いて調査を実施。その結果、診察・治療中や回復期において、清潔さを保つことができない、衛生対策を講じることができないことが、感染が広がる主な原因となっていることが明らかになりました。この調査によると、保健医療施設で最も罹患しやすい感染症は、手術部位感染、血流感染症、そして肺炎などの呼吸器感染症であり、集中治療室や新生児病棟・新生児集中治療室、小児科病棟での感染率が最も高い状況にあります。
この調査結果は、本来予防が可能な原因によって、人々の命が奪われていることはもちろん、毎年感染症によって、こうした国々のGDPの平均1.1％、そして保健分野の予算全体の平均4.5％が失われているという現実を示しています。これは、調査対象の7カ国では、年間84億ドルの損失に相当し、後発開発途上国46カ国の保健医療施設すべてで清潔な水と衛生設備、手洗い設備、廃棄物管理システムを使えるようにするのに必要とされる総額に匹敵します。マラウイでは、こうした感染症による経済的損失は、同国のGDPの2.92％にものぼるほか、年間の保健医療予算の10.9％という極めて大きい額が、感染症の治療に費やされています。
この損失は、近年「サイレントパンデミック」とも言われている薬剤耐性（AMR：抗生物質に耐性を持つ細菌）による感染症増えることで、さらに大きくなります。薬剤耐性は世界的な健康上の緊急事態であり、現在も、毎年500万人近くが命を落としていると言われています。
ウォーターエイド グローバル・ポリシー＆キャンペーン エグゼクティブ・ディレクターのソル・オユエラは次のように話します。
「私たちウォーターエイドの新しい調査は、母親から医療従事者に至るまで、清潔な水と衛生設備を利用できず、衛生的な環境で暮らすことができない人々が直面する現実を浮き彫りにしています。この危機の経済的負担は、サハラ以南のアフリカ諸国の肩に重くのしかかっています。水・衛生という基本的人権がなければ、何百万人もの人々が、治療の第一選択肢である抗生物質に対して耐性がますます強くなっている細菌が引き起こす感染症に苦しむことになり、ひいては、予防可能な原因による数え切れないほどの（そして不必要な）死を招くことになります。
私たちは、新型コロナウイルスを通じて、感染症は国境に関係ないことを学びましたが、同様に『スーパーバグ（超多剤耐性菌：複数の抗生物質に耐性のある細菌）』も国境に阻まれることはありません。抗生物質に耐性を持つ感染症が増えれば増えるほど、これらの国々にかかる財政的負担と世界の公衆衛生への脅威は増大し続け、私たち全員が危険にさらされることになります。すべての人が安全になるまで私たちは安全ではありません」。
今年9月、薬剤耐性に関する国連ハイレベル会合が開催されます。ウォーターエイドは、各国政府に対し、感染症に取り組むことで、低・中所得国における予防可能な死を食い止めるよう、また、薬剤耐性菌感染症から人々を守るために保健医療施設における水・衛生への資金拠出を拡大するよう呼びかけています。
一方、世界では、保健医療施設のおよそ半分に、基本的な手洗い設備が備わっておらず、後発開発途上国46か国では、その割合は、３分の2に跳ね上がります。病院や診療所に水・衛生が欠けている場合、感染症は施設内で急速に広がり、新生児を含むすべての患者を危険にさらし、医師は抗生物質を処方するしかなくなります。
感染の連鎖を断ち切り、抗生物質の使用を減らし、薬剤耐性菌感染症が拡大する機会を減らすためには、各国政府、国際金融機関含め、国際社会が、すべての保健医療施設で清潔な水と衛生設備を利用できるようにし、衛生習慣を実践できるようにする取り組みを優先化する必要があります。そのためには、ドナー国や国際開発金融機関が、保健医療施設における水・衛生の改善を資金的サポートによって後押しすることが不可欠です。また、中低所得国の政府は、国内の保健予算において、保健医療施設の水・衛生を改善するための予算をしっかり確保することが重要です。
実際、現場の多くの保健医療従事者は、保健医療施設に清潔な水がない、手洗い設備がないことで、人々の命を救うことができない経験をしています。
タンザニアのブソルワ診療所で働くクリニカルオフィサー、ジョセフさんは、生まれた直後に不衛生な布にくるまれた赤ちゃんが、生命を脅かすレベルの敗血症を発症したことがある、出産後に新たな感染症に罹患する女性も少なくない、と現状を危惧しています。
「診療所の給水・衛生設備が整備される前は、抗生物質が頻繁に使われていました。女性たちが出産のために診療所に訪れても、トイレの不備が原因で尿路結石をはじめとする感染症にかかり、一度は退院したものの、すぐに診療所に戻ってきて抗生物質を処方される、といったこともあります。」
マラウイにあるムフジ保健センターの出産病棟で助産師を務めるミサニデさんは、母親が感染症のリスクにさらされたままであることで起きる悲惨な結果を目の当たりにしてきました。
「私が最も心を痛めているのは、赤ちゃんが9か月間、お母さんのお腹のなかで育った後に、結局お母さんが赤ちゃんを抱くことなく（保健センターから）自宅に帰る、ということです。それを目撃し、経験するのはつらいことです」
世界銀行のシニア・ウォーター・エコノミストであるクレア・チェイスは、次のように話します。
「世界銀行が開発したこの新しい方法論が、世界各国の経済的コストを評価し、水・衛生への資金拠出拡大を提言するために活用されていることを嬉しく思います。今4月前半は、世界銀行2024年春季会合の前という重要な時期であり、各国代表や世界のリーダーたちが集まり、この差し迫った問題にどのように対応するのが最善かを話し合う予定です。」
この調査を実施した、水・衛生分野のシニアエコノミスト兼ファイナンシング スペシャリストであるガイ・ハットンは、次のように話します。
「医療関連感染への対応は、世界中の医療システムにおいて最優先事項であるべきです。この調査の対象となったアフリカ諸国では、入院患者の少なくとも10人に1人が、病院内に蔓延する新たな感染症に罹患しています。こうした予防可能な感染症は、別の病気を引き起こすほか、入院期間の延長、障害が残る可能性、時には死の原因となることで、患者、その家族、医療従事者に影響を与え、多大な超過支出を招きます。また、他の患者の治療に費やされるべき医療従事者の貴重な時間が割かれてしまうことにもなります。」
調査レポート（英語版）はこちらをご覧ください。
この調査は、7か国における、2022年の医療関連感染の推定値に基づいています。経済的損失は、直接医療費、生産性損失、早期死亡の集計から推定しました。
