インド オディシャ州 地下水のフッ化物汚染が深刻なコミュニティを訪れる

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18 May 2018
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2017年9月、ウォーターエイドジャパンの事務局長高橋とプログラム・コーディネーターの松井は、インド東部に位置するオディシャ州バラソール県レムナ郡にある、地下水のフッ化物汚染が深刻なコミュニティを訪れました。コミュニティの現状と課題、ウォーターエイドのプロジェクトについて、松井が報告します。

インドは、経済成長がめざましい一方、カースト、民族等が原因で、開発から取り残されているコミュニティが依然として多く、そのような地域では、水道などのインフラ整備が遅れています。また、地下水使用量が急激に増えたことにより、地下水不足が発生。さらに野外排泄や天然由来のヒ素・フッ化物による地下水汚染も深刻です。結果として、この国では、1億6300万人が清潔な水を利用することができません。

ウォーターエイドは、1986年からインドで活動。現在、11州で水・衛生プロジェクトを実施しています。今回、そのなかの1州、オディシャ州を訪れました。

オディシャ州の州都ブバネーシュワルの空港から車で約4時間。私たちが訪れたのは、舗装されていない道や車1台通るのがやっとの狭い道を通ってたどり着くアクセスが困難な村でした。

この村で問題となっているフッ素症は、フッ化物で汚染された水を飲み続けることによって発症します。主な症状としては3つー歯のエナメル質に影響がある「歯のフッ素症」、骨に影響が出る「骨フッ素症」、消化器官や神経に影響が出る「非骨フッ素症」です。この地域では、地下水不足が進んだことで、地下水中のフッ化物の濃度が高くなり、近年、フッ素症を発症する人が増加しています。一方、村の住民たちは、フッ素症について、そしてフッ素症が何が原因で起きているのか、最近まで知りませんでした。

私たちが村に着くと、村の人々が「この子を見て」と男の子を連れてきました。男の子は、歯のフッ素症を発症しており、歯に褐色の斑点ができていました。男の子の年齢は13歳とのことでしたが、私たちには7~8歳くらいに見えるほど小柄でした。

離れたところに静かに立っていた男性は、フッ素症によって、杖を使わないと立ったり歩いたりすることが困難でした。この男性の年齢は40代、17歳のときから足の痛みが出ていたとのこと。このように体の痛みなどで寝たきりになっている住民もかなり多くいると、人々は話してくれました。

この村では、何人がフッ素症を発症しているのか、正確な調査がまだできていませんが、ウォーターエイド・インドの東部オフィスのプログラム・コーディネーター ビカシュ・パティは、約40%の人々がフッ素症を発症しているのではないか、と話します。水中のフッ化物濃度の基準値は、水1リットルあたり1mg以下と定められていますが、村の学校にある給水設備では、基準値の14倍となる14.34mgが計測されました。

 

村には手押しポンプ付き井戸があるものの、この井戸から出る水も基準値を超えるフッ化物が検出されており、飲むことはできません。フッ化物を取り除くためのフィルターが政府から提供されましたが、そのフィルターを通った水は変な味がするとのこと、さらにフッ化物自体も除去されないことがわかったため、使われていませんでした。

私たちが訪れた際には、すでに住民たちは、簡易水質検査キットを使って、村内の給水設備の汚染度を確認していました。ほぼすべての給水設備において、フッ化物濃度が基準値を超えていたため、現在、車を使って離れた村から水を運んできているとのことでした。

この村の多くの人がフッ素症を発症している背景として、安全な水が出る給水設備がないことがありますが、ではなぜ給水設備がないのかを探ると、次の理由が挙げられます。

インドでは、本来、各村の村水衛生委員会が、その村の給水サービスの運用・維持管理に責任を持ち、もし給水サービスの不足・故障等の不備があれば、給水設備の新設・修復の計画を策定し、政府から予算を得て、その計画を実施する、ということになっています。また、その過程では、住民と定期的に意見交換することも期待されています。

しかし、インドで今も清潔な飲料水を利用できない地域では、この村水衛生委員会のしくみが機能しておらず、村水衛生委員会が立ち上げられていない、またはあったとしても形骸化している、ということが課題です。今回、私たちが訪れた村も同様に、村水衛生委員会が機能していませんでした。さらに、村水衛生委員会を管轄する県・州政府の水・衛生担当部署自体が、この地域で起きているフッ化物による地下水汚染やその住民への影響について、十分理解しておらず、対策をとっていないことも問題でした。

インドでは、上記のようなフッ化物による地下水の汚染、ならびにそれに対して村水衛生委員会が機能していないという課題は各地で起きており、そのような地域においてウォーターエイドは、主に下記のような活動を行っています。

 

①村水衛生委員会と住民による給水設備の整備計画の策定

村ごとに村水衛生委員会と住民が参加するワークショップを行い、既存の給水設備の場所などを記した村全体の大きい地図を作ります。その地図に、既存の給水設備の水質や季節ごとの水量、川やため池の分布などを住民が書き込んでいき、今後どこにどのような給水設備を必要であるか、どの給水設備を修復する必要があるのかなどを議論。そこにウォーターエイドの技術的なアドバイスを加えて、村の給水設備整備計画を策定、その計画を県・村に共有します。

②フッ化物汚染のない安全な水を得るための給水設備の設置

上記①で策定した計画をもとに、フッ化物汚染が発生していない浅めの地下水を利用し、かつ外部から汚染されにくい構造の手押しポンプ付浅井戸(サニタリー井戸)、ならびに雨水貯留タンクや表流水を利用した給水設備などを、村水衛生委員会と住民が主体となって設置します。合わせてこのような給水設備の修理ができる人を育成するトレーニングを実施します。

③行政を対象としたフッ化物汚染の啓発

インドでは本来、県・村が、中央政府からおりてきた予算をもって、村水衛生委員会が上げてきた給水サービスの計画を承認し、それらの実施をモニタリングする役目を担っています。しかし、県・村が、フッ化物汚染が深刻である、という認識を持っていなかったり、モニタリングする能力に欠けていたりすることによって、中央政府から与えられた給水向け予算を有効に使えていないという課題があります。ウォーターエイドは、県・村の水関連部署や保健関連部署を集めて、フッ化物汚染の原因や危険性、現状について啓発するワークショップを開催します。

ウォーターエイドはこのように、給水設備を設置するだけではなく、村水衛生委員会と住民が、自分たちで給水サービスに関する課題を見つけ、自分たちで課題を解決することが可能になるようなプロジェクトを実施しています。私たちが訪れた村でも、今後、村水衛生委員会が機能するようになれば、状況は少しずつ改善され、人々は安心して給水設備の水を飲むことができるようになるでしょう。

ウォーターエイドジャパン
プログラム・コーディネーター
松井理紗子