生死にかかわる問題-危険な環境が母親と新生児の命を奪っています

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12 December 2014

最新の論文によると、開発途上国では出産の場に安全な水と衛生設備、衛生習慣が不足しているために、妊産婦と新生児が命を落としています。保健に関する主要9団体は、各国政府に対し、生命を救うための活動を実施すること、専門技術を持つ保健ワーカーによってそれが実践されることを求めています。

ウォーターエイドおよびロンドン大学衛生熱帯医学大学院(London School of Hygiene & Tropical Medicine)は、世界保健機関(WHO)、ユニセフ、国際連合人口基金(UNFPA)、シェア・リサーチ・コンソーシアム(SHARE Research Consortium)、その他の団体とともに、保健医療の現場や家庭で安全な水と基本的な衛生設備、衛生習慣(教育)をもっと利用できるように改善することによって、母親になったばかりの女性たちと新生児たちの命を守るよう求めています。

国際医学誌プロス・メディシン(PLOS Medicine)に掲載された論文によると、保健医療が進歩しているにもかかわらず、清潔な水の安定的な供給や正しい衛生習慣、適切なトイレがないことが原因で、母親になったばかりの女性たちと新生児がいまだに命を落としています。

科学雑誌プロスワン(PLOS ONE) に掲載されているタンザニアの現状を扱った同種の論文では、安全な水や基本的な衛生設備が整った場所で行われる出産が、全体の約3分の1以下(30.5%)に過ぎないことが指摘されています。2013年には、一生のうちで出産時に死の危険に直面するタンザニアの女性は、44人中1人にのぼりました

多くの開発途上国において、女性たちは同様の危険にさらされています。2013年、世界ではおよそ28万9000人の女性が、妊娠または出産に伴う合併症で亡くなりました。しかし、安全な水と基本的な衛生設備、衛生習慣の供給およびモニタリングによって、感染症を防ぎ保健医療を改善することができれば、この数字をより早く減らすことができると研究者らは話します。

近々発表される調査結果(WHO, 2015初期発表予定)によれば、54の低所得国において、医療施設のおよそ38%で改善された水源がないため、医師や看護師、助産師たちは患者の看護に苦慮しています。

ウォーターエイドをはじめ、WHO、ユニセフ、UNFPA、ロンドン大学衛生熱帯医学大学院、アバディーン大学およびソープ・ボックス・コラボレーション、バングラデシュのNGOであるブラック(BRAC)およびブラック大学(BRAC University)、そしてエヴィデンス・フォー・アクション(Evidence for Action)を代表する16名の研究者たちが共同で論文を執筆しました。「共同思考から共同行動へ:母親と新生児の健康のために、水・衛生設備・衛生習慣(教育)の改善を求める(From joint thinking to joint action: A call to action on improving water, Sanitation and Hygiene for maternal and newborn health)」です。

この研究は、イギリス国際開発省からの資金提供を受けている5カ年イニシアチブであるシェア(Sanitation and Hygiene Applied Research for Equity:SHARE)コンソーシアムが後押ししているもので、ロンドン大学衛生熱帯医学大学院を拠点に行われています。

ヤエル・ベルマン(ウォータエイド・衛生・保健上席政策アナリスト)は言います。
「清潔な水と良好な衛生が出産の際に重要であることは、ヴィクトリア女王の時代から知られていることです。しかし今日でも、医師や助産師が(そのような人たちがいない場合が大半ですが)清潔な水を使えない場所で分娩せざるをえない母親が何万人もいるのです。生命誕生の場がすなわち生命を危険にさらす場になる、という理不尽があってはいけません」

「各保健機関や各国政府は、合併症を乗りこえるチャンスがより高いとして、女性たちに病院や診療所などでの出産を勧めています。しかし、そういった場所が清潔ではなく、またそこに安全な水や基本的なトイレもなく、患者やベッド・器具などを清潔に保つ手段がないとしたら、女性たちはわが子と自らが危険な感染症に罹ることを怖れて、医療施設の利用をためらってしまいます」

「各国政府は、出産時に妊産婦や新生児が死亡するのを防ぐための活動を行っていますが、保健医療分野における、先に述べたような根本的な要素を見落としてはなりません。現在国連では、新しい『持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals : SDGs)』について議論が進められており、あと数か月すればこの差し迫った課題に取り組む機会が生まれます」

レンカ・ベノヴァ(ロンドン大学衛生熱帯医学大学院、プロスワン掲載論文の筆頭著者)は言います。
「タンザニアでは毎年、およそ8000人の女性が出産中に、あるいはその直後に命を落としています。死因の10%を占めるのが感染による敗血症です。女性の約半数、とくにタンザニアの最貧層では極めて多くの人たちが自宅で出産しますが、家の中に清潔な水や基本的な衛生設備はほとんどありません。医療施設が不衛生であれば、女性たちが出産のために医療施設を利用することは期待できません」

「この状況はタンザニアに限ったことではありません。歯がゆいことに、清潔な水と基本的なトイレ、衛生習慣の実践などが導入されれば、このような感染症に関連した死亡を防ぐことができるのです。私たちは、母親になったばかりの女性と新生児の健康を改善するために、これらの調査結果が国連の開発目標における将来の活動を導く手がかりになること、さらに上記のようなサービスの提供が優先的に行われることを期待しています。」

PLOS Medicineに掲載された論文

PLOS ONEに掲載されたタンザニアに関する論文

ミレニアム開発目標(MDGs)について

●2000年に国連は、2015年までに達成すべき8つの「ミレニアム開発目標」を採択し、開発のための計画を策定しました。

●妊産婦の死亡率を4分の3減少させるという目標については、進展が見られます。昨年、10万人の新生児の誕生にあたって亡くなる母親の数は210人と、1990年から45%減少しました。しかし、開発途上国での妊産婦死亡率は、いまだに先進地域の14倍です。

●新生児の死亡は、特に取り組むのが難しい課題です。5歳未満児の死亡者数は、1990年の1270万人から2013年では630万人に減少しました。しかし、新生児が亡くなる率は増加しているのです。WHOの調べでは、2013年に5歳未満児の死亡ののうち、生後1か月以内に死亡した割合は45%です。

●衛生はもっとも達成が危ぶまれる目標のひとつです。ウォーターエイドが行った分析によると、サハラ砂漠以南のアフリカでは、基本的な衛生設備を利用できない人々の割合を半減させるという目標が達成されるまでに、現在の進捗状況ではあと150年かかります。

●国連では現在、2015年以降の新たな「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals : SDGs)」に関して協議が行われています。ウォーターエイドは同じ分野で活動をするパートナー団体とともに、すべての人が家庭や保健医療施設、学校において水と衛生設備を利用できるようにするという目標を独立して掲げるように求めています。さらに、母親と新生児の健康を向上させるための目標に、水と衛生設備、衛生習慣に関するターゲットを含めるよう要請しています。

タンザニアにおけるウォーターエイドの活動

ウォーターエイドは、タンザニアにおいて、医療施設や学校、家庭で、安全な水と衛生設備、衛生習慣へのアクセスが改善されるよう活動しています。2014年8月、タンザニアのモロゴロ地方にある診療所で行ったインタビューと映像では、安定した水の供給によって、女性たちが診療所を利用し、より安全で清潔な出産が可能になる様子をご覧いただけます。

タンザニア・モロゴロでの映像とインタビュー

英語字幕・解説付の高画質映像

写真とケーススタディ