【活動レポート・ブログ】バングラデシュ:気候危機に直面する人々に命の水を

BG79_253
Image: WaterAid/ Fabeha Monir

日本の4分の1ほどの面積に、1億6,500万人以上が暮らすバングラデシュは、世界で最も人口密度の高い国のひとつです。1970年代には最貧国だったものの、現在、貧困率は大きく改善し、経済的な成長を遂げています。一方、バングラデシュは南アジアの国々のなかでは特に水やトイレの普及状況が低く、特に近年は気候変動の影響もあって、深刻な水・衛生の課題を抱えています。

バングラデシュにおける水・衛生の課題

2022年のバングラデシュ統計局の調査[1]によれば、6年前の前回調査と比較して、都市部においては飲料水を水道から得る人が増えており、水の状況は改善していると言えます。一方、農村部における状況は6年前とほぼ変わらっておらず、9割を超える人が井戸の水を飲料水として利用しているほか、池や川の水といった、安全ではない水源から飲み水を得る人の割合は6年前と比べて増加を示しているなど、都市部と農村部でも格差が見られます。

BG79_041
Image: WaterAid/ Fabeha Monir

約24,000kmの河川が縦横に走るバングラデシュでは、水そのものは豊富にありながらも、その多くは飲み水に適していません。今も325.7万人が清潔な水を利用できず[2]、 地下水のヒ素汚染、さらには海水の浸入よる地下水の塩化などが、安全な飲み水の確保を妨げています。安全な水やトイレがないことによって、毎年5歳以下の子供たち約1000人が命を落としています。

気候危機=水・衛生の危機

_DSC5490
水が干上がり、亀裂が入った川床
Image: WaterAid/ Drik/ Suman Paul

追い打ちをかけるように、バングラデシュでは、洪水やサイクロン、干ばつが頻繁に発生し、人々の生活に深刻な被害をもたらしています。2007年から2021年の14年間には、10回のサイクロンが上陸。直近2021年のサイクロンでは、130万人以上が被災、約26,000棟の家屋が被害を受けるなど[3]、その影響は人々の日常を一変させるほど深刻なものです。

_DSC5257
Image: WaterAid/ DRIK/ Habibul Haque

バングラデシュ南部の沿岸流域に位置するベトカリ村の人々は、今まさに、気候変動の影響で深刻化する水・衛生危機により、苦境に直面しています。41世帯、147人が暮らすベトカリ村の住民のほとんどはムンダ族と呼ばれる少数民族で、主に農業、漁業、エビの養殖場での日雇い労働に従事しています。ムンダ族の人々は、ヒンドゥー教を信仰する人が多く、イスラム教徒が多いバングラデシュにおいては社会的マイノリティです。そのため、水くみの列で、いちばん後ろに並ばされたり、教室で後ろの席に座らされたりと、生活の場、学校で、あらゆる面で差別を受けています。

BG79_160
汚染された池の水で食器を洗うベトカリ村のジョヨスリさん
Image: WaterAid/ Fabeha Monir

ベトカリ村では、池の水を洗濯や食器洗い、身体を洗う際の生活用水として使い、飲み水は歩いて3~4時間かけてくみに行ったり、市場で購入したりせざるを得ません。池の水は濁り、塩分を多く含み、農薬で汚染されていますが、遠くの給水設備からは飲み水の分しか持ち運んでくることができません。池の水で体を洗うことが原因とみられる皮膚疾患や抜け毛も確認されており、水を媒介とする病気は日常茶飯事です。

ベトカリ村の人々にとって「水」は贈り物であると同時に災いでもあります。水がきれいで安全であれば、「水」は生きるために必須であり、食料や健康をもたらすものですが、一方、近年は、豪雨や洪水が頻発するようになり、同じ「水」によって農作物や道路、家屋が破壊されています。この地域では、大雨・洪水によって、これまでに何度も浸水を経験してきたほか(最大60cm)、海水の侵入によって塩水化が進み、農業への影響も出ています。

「最大の問題は水不足です」

ベトカリ村の長老であるデベンドラナスさん(70代)は、長年にわたり、人々が水源としている池が干上がったり、農地が荒廃したり、道路が壊されていく様子を目の当たりにしてきました。

BG79_246
Image: WaterAid/ Fabeha Monir

2009年頃まで、デベンドラナスさんは森林で働いていました。仕事には困難がつきもので、せまい小川をボートで進まなくてはならなかったり、さらには森のなかでトラに遭遇したり、怖い思いをしましたが、今、デベンドラナスさんがもっとも恐れているのは、気候変動と水の危機です。

「ここベトカリの未来は楽観視できません。海水の浸入はますますひどくなっています。トイレはほとんど壊れています。トイレは8か月から1年しかもたないので、もっと長持ちするものが必要です」

BG79_230
Image: WaterAid/ Fabeha Monir

「私が小さいころ、土地が荒れて作物が育てられなくなり、スイレンの生花しか食べられないことがありました。私は自分の子供たちには同じ思いをさせたくありませんでした。自分が食べられなくても、子供たちが食べられるようにしました。子供たちに食事をさせることがもっとも重要なことであり、それが私の原動力なのです」

「私のコミュニティが直面する最大の問題は水不足です」と語るデベンドラナスさんの唯一の願いは、子供たちが自分のように水で苦労をしないことです。しかし、水やトイレの問題を解決しなければ、事態は悪化する一方だと危惧しています。

気候変動の影響を受けづらいコミュニティを目指して

ウォーターエイドは、こうした状況を変えるべく、ベトカリ村を含む、気候変動の影響に脆弱な沿岸地域において、住民参加型で地域の調査を行い、気候変動の影響に対するコミュニティの脆弱性を測る取り組みを進めていきます。このプロジェクトでは、以下の取り組みを進めます。

BG79_020
母親の水くみを手伝うベトカリ村のノヨンくん(左)
Image: WaterAid/ Fabeha Monir
  1.  気候変動の影響を受けにくい雨水活用設備の設置
  2. 各家庭におけるトイレ設置
    ※    資材提供や労働によって建設にかかるコストの10%を住民が負担します。 こうすることでオーナーシップが芽生え、トイレが持続して維持管理されるようになります。
  3. プライバシーの守られた女性専用の沐浴場設置
  4. 生ごみ活用による収入機会の創出
  5. 給水安全計画策定、手洗いや月経衛生管理、 乳幼児の適切な排泄物管理などを含む衛生促進活動設備の設置
BG79_248
Image: WaterAid/ Fabeha Monir

サイクロン、洪水、干ばつ――こうした予測不可能な異常気象を、今すぐ止めることは困難です。しかし、コミュニティが受ける気候変動の影響を軽減することは可能です。今まさに、気候危機に直面するデベンドラナスさんのような人々に希望を届けるため、ウォーターエイドでは冬募金へのご協力を呼びかけています。安全な水を切に願う人々に水と希望を届けるため、ウォーターエイドの活動にご協力をお願いします。

詳しくはこちら


[1 ]BANGLADESH BUREAU OF STATISTICS (BBS)
[2] Joint Monitoring Programme (2022)
[3] Christian Aid