【活動レポート・ブログ】12月12日は「ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)デー」:すべての人が質の高い保健医療サービスを受けられるようにするには、保健医療施設の水・衛生改善が急務

Bedriya Jemal, a health extension professional at Buriya Health Post, washes her hands with the water installed in her office after providing services to the people who visit the health post, Buriya Kebele, Gololcha District, Bale Zone, Oromia Region, ...
Image: WaterAid/ Frehiwot Gebrewold

毎年12月12日は、「誰もが、どこでも、お金に困ることなく、自分の必要な質の高い保健・医療サービスを受けられる状態」を実現するよう世界に呼びかける日「UHCデー」です。この日を前に、水・衛生専門の国際NGOウォーターエイドは、水・衛生は人々の健康を支え、UHCの達成に不可欠なものであること、そして、特に保健医療施設における水・衛生を整備することが、費用対効果の高いアプローチであると強調し、これまで国際社会でUHCの推進をリードしてきた日本政府が、来年のG7等の機会に、この課題にスポットライトをあてることに期待を寄せています。 

今年のUHCデーが呼びかけているメッセージは、「誰もが望む世界をつくろう。すべての人に健康な未来を」。そしてこのような世界を実現するには、「すべての人が、生涯を通じて信頼できる医療システムを利用する権利があること」、「健康的な環境であること」などが重要であると発信しています。 

UHC Day Subtheme 3

「質の高い保健・医療サービス」の提供を困難にしている要因のひとつが、病院や診療所などの保健医療施設の水・衛生問題です。後発開発途上国において、トイレがある保健医療施設は20%、給水設備を利用できる施設は53%、手洗い設備がある施設は68%にとどまっています。保健医療施設に清潔な水とトイレ、手洗いする環境がなければ、患者は診察・治療中に本来予防可能な感染症にかかる可能性があります。また、不衛生な環境での出産に伴う感染症によって、年間100万人を超える女性と新生児が命を落としており、このことは出産時に新生児が亡くなる原因の26%、女性が亡くなる原因の11% を占めています。このような環境では、女性たちは安心して出産することもできません。後発開発途上国の多くの保健医療施設が、「質の良い保健・医療サービス」を提供するどころか、感染を広げる場、そして女性が命の危険にさらされて出産する場となっています。さらに、医療従事者の70%を女性が占めていると言われていますが、トイレも手洗い設備もない保健医療施設では、医療従事者たちは安心して働くこともできません。このような状況では、「信頼できる医療システム」とは言えません。 

保健医療施設における水・衛生は、UHCだけでなく、パンデミックへの備えと対応、薬剤耐性菌(AMR)の拡大防止などにも不可欠です。保健医療施設において、手洗いによって手指衛生を向上させることで、医療サービス提供中に起きる感染を最大 50% 防ぐことができます。保健医療施設内の感染を防ぐことはAMR対策として重要です。また、世界の全死亡者の約20%が敗血症によるものですが、医療に関連した敗血症の半分以上は、感染予防・管理の一環である水・衛生によって予防可能であると考えられています。 

ユニセフとWHOの調査によると、2030年までに後発開発途上国のすべての保健医療施設で清潔な水とトイレを利用し、衛生習慣を実践できる状態を達成するために必要な額は96億米ドルと見積もられています。保健医療施設における水・衛生の整備によって、UHC達成、さらにパンデミックへの備えと対応、AMRの拡大防止、母子保健に大きな効果があることを考えると、これは費用対効果の高い必要な支出と言えます。 

今年、ドイツで開催されたG7の保健大臣会合のコミュニケでは、「AMRの予防と対応における重要な要素として、水、衛生設備、衛生習慣・行動が重要」と明記されるなど、保健医療施設の水・衛生において進展が見られました。そして、日本は2023年1月1日、ドイツからG7議長国を引き継ぎます。日本政府は長年、国際社会において、UHC含む国際保健の議論をリードしてきたほか、水・衛生分野の最大ドナー国として、世界の水・衛生問題にも積極的に貢献してきました。日本政府が2022年5月末に発表した「グローバルヘルス戦略」では、「水・衛生は、保健と極めて強い関連性を持つ分野であり、水・衛生のアクセスに加えて、特に保健医療施設における水・衛生や手洗い、換気等の衛生行動の改善は、感染防止としても重要性が高まり、保健へのインパクトは大きい。それを踏まえて、これらの分野への取組を強化する」と、保健医療施設の水・衛生の重要性が明記されています。

ウォーターエイドは、このように国際保健をリードしてきた、そして水・衛生分野の最大ドナー国のひとつである日本政府が、2023年5月のG7等の機会に、保健医療施設における水・衛生改善に向けた国際社会の取り組みを加速させる重要な役割を果たすことができると期待を寄せています。 

ウォーターエイドは特に、日本政府が果たす役割として下記の点を提言します。 

  • G7議長国として、2030年までに最貧国・後発開発途上国の保健医療施設すべてで清潔な水とトイレが利用でき、手洗いが実践できるようにするために、世界のパンデミック対策関連のイニシアチブ・取り組みが、保健医療施設の水・衛生の改善に注力し、触媒的な資金を拠出するよう働きかける。 
  • AMR対策として水・衛生が重要であることを認識し、UHCの基盤であるプライマリー・ヘルスケアの取り組みに、水・衛生を組み込むことを支援する。 
  • 二国間のグローバルヘルス関連の取り組みにおいて、保健システム強化の一環として、水・衛生(特に保健医療施設における水・衛生)に注力する。また、多国間のグローバルヘルス関連の資金において、同じく保険システム強化の一環として、水・衛生(特に保健医療施設における水・衛生)が組み込まれるよう働きかける。 

この記事は、ウォーターエイドジャパン事務長 高橋 郁とウォーターエイドのシニアアドボカシーアドバイザー(ドイツ)のAlexia Knappmannのレポートを、ウォーターエイドジャパンで編集したものです。オリジナルはこちら(英文)