【活動レポート・ブログ】タンザニア:小さな「タグ」が農村部の持続可能な給水を実現

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給水サービスの電子決済システム「eWATERpay」の導入によって、タンザニアの村では水くみの待ち時間が3時間から10分に短縮され、水の料金収入が最大3倍になったことが明らかになりました。

ウォーターエイド・タンザニアのコミュニケーション・戦略マネージャーのプリヤ・シッピーとプログラムディレクターのアベル・ドゥガンジが、10ペンスコインほどの大きさのタグによってどのように農村部の給水システムを変わったのかを紹介します
 

なぜコミュニティに新しい支払い方法が必要なのでしょうか? 
 
タンザニアの水について考えるとき、特に遠く離れた農村部における持続可能性は重要課題の一つです。過去15年間、新しいインフラの構築に多額の投資をしてきたにもかかわらず、水・灌漑省 (MoWI) が実施した定期モニタリングの最新データによると、農村部の給水設備の約35%が機能していないことがわかりました。

An eWATERtag worn on the wrist, Tanzania, 2017.
eWATERタグを手首につけている写真
Image: WaterAid/Priya Sippy

 

課題

2014年、ウォーターエイド・タンザニアは、ババティ地区評議会と連携し、マニャラ州ババティの複数の村においてプロジェクトを開始しました。2017年には、給水サービスの持続可能性を改善するために、技術系スタートアップ企業eWATERpayと共同で農村部の給水サービス向けの電子決済システムのテスト運用を開始。エンダンチャン村、バシュネット村、ギドワー村に清潔な水を届けることを目指しました。

プロジェクトの開始前は、エンダンチャン村に11か所、ギドワー村に10か所ある給水ポイントで、コミュニティ給水組織(COWSO) が契約する業者が水を販売していました。しかし、その販売業者は他の仕事もあるため、最長でも1日5時間しか水を販売できませんでした。その結果、村の人々が水を買うことができる時間が限られていたため、販売業者が到着するまで長時間待たなければいけないこともありました。

また、水の無駄遣いも大きな問題でした。村の人々はバケツ一杯20リットルの水に対して25タンザニアシリング(日本円で約1.2円)を支払っていましたが、水をくむ前、水を数リットル使ってバケツを洗い、その水の料金は支払っていませんでした。このように、水を出した分に対してお金を払わなければならないシステムではなかったので、バケツから水があふれることや、蛇口を開けたままにすることもあり、水もお金も無駄遣いしていました。

さらに、村の人々は水の使用料金を業者に現金で直接支払い、業者はCOWSOの財務担当にお金を支払っていましたが、そこには透明性を確保するためのしくみが何もなかったため、頻繁に損失が生じていました。

エンダンチャン村のCOWSO の会計担当者はこのように話します。
「水の使用量とメーターに基づいて集めた金額が合わず、かなりの資金が失われました。そのため給水設備の運用や維持管理に十分な資金を充てることができず、資金不足で修理ができなくなることもありました。これでは設備とサービスの持続可能性を望むことはできませんでした。」

これらは、タンザニアの多くの村に見られる共通の問題です。


給水電子決済システムの効果について

eWATERpayのシステムは、電子マネーや近距離無線通信(NFC)、IoTのクラウドサーバーモニタリングを用いた経済的でシンプルな技術です。利用者はスマートフォンのeWATERアプリ、電子マネー、ペイパルの送金受取システム等様々な方法で、eWATERタグにチャージするための「クレジット」を購入できます。eWATERが導入された給水設備から水をくんだ使用者が、eWATERの読み取り機にタグをかざすと、「クレジット」が使われるというしくみです。
 

Communities can now access water at any time of day using their token, Tanzania, 2017.
給水設備のタグ読み取り機に eWATERタグをかざして、水をくむ女性
Image: WaterAid/Priya Sippy

 

効率、透明性、説明責任の改善

eWATERpayシステムは、様々な問題解決に役立ちました。まず、水が毎日24時間使えるようになり、給水設備に並ぶ人が減り、人々は欲しい時に自由に水をくめるようになりました。eWATERpayの調査によって、ギドワー村の水くみにかかる平均時間は、3時間からたった10分に減ったことがわかりました。


また、使用者が給水設備でeWATERタグをかざした時にだけ水が出てくるので、水を出した分すべてに対してお金が支払われるようになりました。支払われたお金はオンラインの銀行口座に入金されます。そしてその収入の80%がCOWSOに支払われ、給水設備が問題なく使用できるよう運用・維持管理が可能になります。


給水設備はインターネットに接続されているので、水の流動率、給水設備の使用率等の生のデータを取得したり、給水設備の使用状況を遠隔で監視したりすることもできます。そうして給水設備の機能に影響がある問題をすぐに発見し、対応することができます。COWSOは給水設備を訪問して状況を記録したり、銀行に行って毎月の集金を預けたりすることに時間を費やす必要がなくなりました。集められたデータは、その地域で給水サービスに追加投資をするかどうか決定する上での情報として使用されます。

The different water points across Endanchan Village. eWATERpay shows the status of each water point so the engineers can detect any problems quickly. Tanzania, 2017.
スマートフォン画面にはエンダンチャン村の給水設備が表示されます。eWATERpayで各給水設備の状況を確認できるので、エンジニアは問題をすぐに発見できます。
Image: WaterAid/Priya Sippy

 

村の人々の生活を大きく変えたシステム

マニャラ州ババティのエンダンチャン村、ギドワー村では、村の人々に4000個以上のタグが配られています。
 
eWATERpayは、人々の生活を大きく変えました。それまでは、エンダンチャン村の水の料金収入は、3か月間で1,125,425タンザニアシリングでしたが、eWATERpay導入後には、その金額が2,383,304タンザニアシリングになりました。ギドワー村では、425,250タンザニアシリングから1,427,786タンザニアシリングへと増加しました。こうした増収のおかげで、COWSOは運用や維持管理に十分な資金を確保することが可能になります。さらに、その資金を利用して給水設備から少し遠くにある村に給水ネットワークを拡大するための計画をたてることもできます。

ウォーターエイド・タンザニア、アルーシャ州議会、eWATERpay、トゥマイニジピヤ・ネルソンマンデラ科学技術大学研究所は、イギリスの国際開発省から資金援助を受けて、アルーシャ州にある5つの村で同様のプロジェクトを実施するために提携しました。ウォーターエイドは、来年も引き続きタンザニア水灌漑省と協働し、eWATER、政府のプロジェクト資金計画、給水設備のマッピングシステムの統合していくことを目指します。 
 
技術はまだ試験段階ですが、これまでの結果をふまえるとよい効果が期待できます。この小さなタグは、給水設備をより持続可能なものにするための大きなチャンスです。そしてこれは、2030年までにすべての人がすべての場所で清潔な水と適切なトイレ、衛生習慣を生涯にわたって使用できるようにするための一助となるでしょう。

 

ウォーターエイド・タンザニア

コミュニケーション・戦略マネージャー プリヤ・シッピー

プログラムディレクター アベル・ドゥガンジ